時代や言語を超えて愛される、昭和歌謡の魔力とは
横山剣の週刊誌連載「昭和歌謡イイネ!」が書籍化。本人にその魅力を改めて尋ねた。
「例えば、1967年のヒットチャートを見ているだけで面白いんですよ。ロングヒット中の三波春夫さん『俵星玄蕃』と、ザ・タイガースといったグループサウンズのロックンロールが同居している。すべてを許容し、混沌としているのが昭和歌謡の魅力ですね。
サブスクのカオスを享受する我が家の子供たちは、藤井風さんやヨルシカと並行し、小林幸子さんなんか聴いて“エモい!”とか言っています。昭和歌謡の持つ、情念の“にじみ”を痛感しました」

昭和歌謡が、世界中から注目を浴びている理由を分析
「子供の頃から作曲家を志していたので、気に入った曲を分析する癖があったんです。そんな中、邦楽にしかない何かがあるとわかった。日本語詞の曲はカチッとした言葉の譜割りをするので、英語のものとは異なります。それでも昭和の歌手や作曲家の多くは、海外のサウンドに憧れ、試行錯誤を繰り返した。そうしてできた音楽にはオリジナルの“にじみ”があるんです。
坂本九さんの『上を向いて歩こう』は全米1位を記録しましたが、歌や詞の持つ情念から生まれた“ソウル電波”とも呼べる波動が受け入れられた証拠じゃないかと。昨今、日本のシティポップが世界中で聴かれたことにもつながると思います。でも“にじみ”を作られた当人にお話を伺うと、無意識過剰といいますか(笑)、当時のことを覚えていない方が多いのもまた素敵です」

本書には、横山自身が憧れた、昭和の傑物たちとの貴重な対談も収録されている。
「故・橋幸夫さんとのトークは、ご本人やスタッフからは了承が出たものの、昭和の芸能話が危なすぎて出版社が掲載を差し控えたほど(笑)。やはりスターたる覚悟はすさまじかったようで、同じ人間とは思えないオーラを放っていました。
それから作曲家で、アルファレコードの代表も務められた村井邦彦さんにもお会いできました。慶應ボーイ時代から赤坂でレコード店を経営、さらにモータースポーツにも精通。音楽の才能も、商才もすごい。僕のヘソであり急所というか、コンプレックスを感じる存在でしたが、実は憧れの人だと気づかされた。貴重な体験でしたね」