正解がないことが「正解」?
ラーメンは多様性の時代へ。
ラーメンの街、札幌。今や味噌ラーメンだけが札幌の「正解」ではありません。近年は全国のトレンドを取り入れながら道産食材を使って表現したり、独自のアレンジを加える店が現れるなど、札幌のラーメンは日々進化。それを引っ張るのが20代〜40代前半の若手店主たちです。
弱冠29歳ながら感度の高さで新風を起こす〈まるは〉長谷川凌真さん。“今”に満足せずストイックにブラッシュアップを続ける〈Lab Q〉平岡寛視さん。新潟・東京での経験を丼に注ぎ込む〈心繋〉玉山俊春さん。ペーストを溶かしながら味わうという独自の世界を追究する〈雨は、やさしく〉東元卓哉さん。15年前に魚介ジュレをのせた一杯で業界に衝撃を与えた〈MEN−EIJI〉古川淳.さんは、道産食材を軸に今なお孤高の道を貫いています。
まさに百花繚乱。「どれが札幌の正解なの?」と問いたくなる気持ちもわかりますが、正解は一つじゃないからこそ楽しいものです。
雨は、やさしく NO,2(札幌駅)
ラーメン丼に巧妙に仕掛けられた起承転結。
かつて小説家を目指していた店主・東元さん。表現へのあくなき欲望を注ぎ込んだ一杯は、ラーメンというより「食べる作品」。カウンターのトップライトは舞台照明のようにラーメンを照らし、これから始まる食のひとときをもり立てる(8割の客はここでスマホを取り出すそうだ)。
ねっとりと濃厚な鶏白湯スープは、途中ホタテペーストを溶かし込むことで魚介の旨味が加わり、また別の表情に。添えられた揚げゴボウと煮ゴボウは味にアクセントを与える名脇役だ。まさに物語のような一杯をぜひ。
Japanese Ramen Noodle Lab Q(大通)
新得地鶏のスープと、道産小麦の自家製麺。
「札幌の正解とは?」と問えば「生産者が近く、顔が見えるラーメンが作れること」と店主。スープには新得地鶏、チャーシューにはルスツ産もち豚の2つの部位を調理法を変えて使うなど、店主が惚れ抜いた食材を使用する。タレは兵庫・埼玉の4蔵が仕込んだ「生揚げ醤油」を使うが、原料を辿れば道産の大豆と小麦だ。洗練されたクリアな味のスープも魅力だが、麺がまた旨い。
5種類もの道産小麦をブレンドして打つ麺はスープと鶏油をまとってモチモチとやわらかく、ズズッとすすれば小麦の香り、甘味が鼻の奥へ抜けていく。
麺処まるは RISE(澄川)
二枚貝のやさしさが、じゅんわり余韻を残す。
札幌ラーメン界に「中華そば」をはじめさまざまなトレンドを持ち込み、数多くのインパクトを与えた〈まるは〉初代・長谷川朝也さん。父の亡き後〈BEYOND(越える)〉を看板に掲げ、2013年に22歳で店を開いたのが凌真さんだ。
2017年に開店した2号店〈RISE〉は「貝出汁醤油」を筆頭とする野心的な商品構成。アサリとムール貝を軸に据えた「貝出汁醤油」は、煮干しスープ、動物系スープを合わせたトリプルスープでバランスを取りながら、貝の繊細な風味がやさしく後を引く。
らーめん心繋(月寒)
新潟・長岡の生姜醤油を、札幌の地で。
定番は「生姜(醤油・塩)」「濃厚」「らーめん」「みそ」の4種類。スープ・タレ・油は商品ごとに異なり、全12席の規模でスープを4本も炊くこだわりぶりには他店の職人も一目置く。とはいえ当の店主は「いろいろある方がお客さんもうれしいでしょ」とさらり。
一番人気の「生姜醤油」は5年間過ごした新潟のご当地ラーメンにインスパイアされたもの。やや甘めの醤油ダレにすっきりとした生姜の香りが重なり、次の一口を誘う。麺はモチッとした太麺またはパツンと硬めの細麺からお好みで。
MEN-EIJI 月寒FACTORY(福住)
素材に対する理解が生む、圧倒的な旨み。
合鴨だし100%のラーメンや札幌タンメンなど、札幌ラーメン界に常に新風を巻き起こしてきた〈MEN−EIJI〉。その原点が「魚介豚骨醤油」だ。濃厚な口あたりの豚骨スープと魚介が織り成す旨味たっぷりの一杯は、ユズを閉じ込めた魚ダシのジュレを溶かすことでいっそう深みが加わる。スープはもとより具材や自家製麺にも北海道産食材を積極的に使用。
2021年オープンの月寒FACTORY店では「生産者の応援につながったら」とラーメンに使う調味料も販売する。近く家系の新店のオープンを控えるなど、今後も目が離せない。