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緑に輝く不思議世界。伊藤桂司が描き出すものとは?

コラージュなどの作品で知られるアーティストが、ペインティングシリーズによる個展を開催。これまでの集大成とも言える作品の背景を追った。

text & edit: Asuka Ochi

日常とつながった非日常、現実と地続きにある「死」の世界観

明るい夜の光を浴びた奇妙な生命体たち。満天の星のもとで艶めく物体は、ゼリーだろうか。緑が覆う風景画は、どこかに存在する並行宇宙を描いているかのようにも見える。コラージュをはじめ、様々な手法の作品で知られる伊藤桂司が発表するペインティングの新作には、「死」という現象が深く関わっている。

「幼少期から漠然と、死は現実と地続きに存在している、不思議な世界と捉えていました。母親と近所のおばあちゃんが、お茶を飲みながらよくそんな話をするのを聞いていて、死への恐怖より、興味の方が勝っていた。そこから、夜や宇宙といったイメージを思い浮かべていました」

近年、友人の死を経験し、その輪郭に触れるかのように、日常と非日常のつながりのなかに現れた世界を描いた。そのアイデアのトリガーとなっているのは実体験であり、描かれるのは全くのファンタジーではない。

「北海道の芽武に、東大の資源再読をテーマにしたフィールドワークで参加したとき、東京では味わえないような奥行きのあるパースペクティブを体験したことは大きかったですね。空間に身を置くことで、自分の意識に明らかな変化が生じるのを感じました。また、タヒチで無人島のホテルに泊まって満天の星空が照らす明るいビーチを見たことや、満月の夜に山梨で緑のトーンに包まれた森を歩いたことも、作品に描いた世界とつながっています」

社会の閉塞感を打ち砕くような、壮大なパースペクティブに浸れる作品の数々。まばゆい静寂に満ちた“緑の宇宙”を旅したい。

『VERDE CÓSMICO』

コラージュの手法を昇華したペインティングシリーズの集大成的作品展。新作含む、約20点を展示。10月1日から30日まで、馬喰町のギャラリー〈PARCEL〉にて開催。
HP:https://parceltokyo.jp