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川口アパートメントに惹き付けられた、新たな住人たちの部屋

昭和の劇作家王・川口松太郎が成した財を、「川口浩探検隊」で一世を風靡した息子・川口浩が惜しみなくつぎ込んで建てた超高級マンションが、東京・文京区の高台にある。築50年の時を経て、むしろいま輝きを放つ。親子2代にわたる普請道楽の血が息づいている。

photo: Akinobu Kawabe / text: Yuka Sano / edit: Tami Okano

暮らしてみて発見したことは
北側の安定した光の心地よさ

自宅兼仕事場として、2階の北側にある部屋を借りて暮らし始めて3年になる。引っ越しするにあたり、かなりの数の物件を見たが「ここだけは、生活が想像できました。シンプルで過不足なく考えられた環境とどう付き合うか、そこに住み甲斐を感じています」。帰ってくると受付で「寒かったでしょう」「荷物届いてるよ」などと、声をかけてくれるのもうれしい。

66㎡の2LDKで、入居にあたり特に大きな改装はしていない。内装に大きく手を加えなくても「自分たちを自然に受け入れてくれる」懐の深さを建物に感じるという。好きな家具と、選び抜いた道具だけを置いた静謐な暮らしは、新保さんたちの変わらないスタイル。住み始めてみて、北側の光の良さを改めて実感している。

新保慶太、新保美沙子(グラフィックデザイナー)

専用の庭が気に入って全面改装
部屋との一体感を楽しむ

1階分のレベル差の傾斜がある庭が決め手で購入。建築家の息子が設計して改装した。コンテナガーデンのレッスンをしている小百合さんのために、玄関から庭を土足で行き来できるようにモルタルの土間でつなぎ、土間に沿ってベンチ、キッチン、ワークスペースを配置したプラン。「想像以上の暮らしやすさ」という。

篠原惇理(一級建築士)、篠原小百合(コンテナガーデナー)

広い窓があるリビング
広い窓は、室内に眺望と日差しを呼び込む。

ゆったりした佇まいが
仕事場の印象にも直結している

元は賃貸で入居。オーナーが手放すというので購入した。合わせて、住み始めてから11年になる。住まいであり、夫婦で設計事務所を営む。ゆったりとしたロビーや趣のある佇まいが、仕事場の印象に直結している。打ち合わせで訪ねてくる人からも好評だ。「住民の皆がそれぞれに、年月の分だけ愛情を重ねている感じがする」という。

青山茂生(建築家)、隅谷維子(不動産仲介)

造り付けの収納がある居間
大幅な改装はせずに住んでいる。仕事場を兼ねた居間の造り付けの収納が昭和の趣。

レストランから設計事務所へ
人が集う場所の歴史を受け継ぐ

1階ロビーの一角にある、竣工当時はレストランだった場所。その後歯科医院になり長年開業していた。篠原明理さんは、両親が居室と一緒に購入したこの場所を借りて設計事務所を開設。スケルトンにしてみたら、外壁からつながる内壁のタイルや、厨房だった場所のタイルなどが出てきた。改めて内装に手を加えることはせず、配管も剥き出しのまま使っている。

家具や食器がアンティークショップのように配置されいる部屋
家具や食器が、まるでアンティークショップのように配置されている。剥き出しの天井や梁、壁に、コンクリートを打った時に型枠として並べた杉板の木目が写っている。いまでは稀な施工技術の痕跡が味わいに。

ヨーロッパの古い家具や道具が好きで、毎年英国に出張するたびにスーツケースいっぱいの建築金物や食器などを買ってくる。通りに面した部屋なので、通りすがりの人から「何の店ですか?」
と窓越しに聞かれることも。今後、住人向けのイベントなどここに人が集まれる機会も作りたいと考えている。

篠原明理(建築家)