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文筆家・甲斐みのりさんセレクト!日本ご当地ドーナツ案内

あんドーナツを代表に、日本にはその土地で愛される、バリエーション豊かなドーナツが多数存在します。全国のご当地菓子に詳しい文筆家の甲斐みのりさんが、セレクトしたローカルドーナツをご紹介。

photo: Natsumi Kakuto / text: Minori Kai, Yuko Watari (Donuts)

和菓子?洋菓子?パン?
日本独自の多様性

和菓子店、洋菓子店、パン店、スーパーやコンビニ。姿形や味の違いはあれど、日本では、この全てで共通してドーナツに出合える。

その土地に暮らす人々には長年食べ慣れた当たり前の存在だけれど、よそからやってきた旅人には、そこはかとない懐かしさとともに、新鮮さをも抱かせる。そうした地域特有の菓子や戦後の昭和20年代~30年代くらいまでに誕生した各地に根付くパンを食べ歩くことを私はライフワークにしている。

そんな菓子やパンに出合うため、日本各地のあらゆる店に立ち寄るのだが、ドーナツは属する店次第で、和菓子にも洋菓子にも、ときにパンとしてもみなされる、なんともおおらかで自在な存在だ。

明治時代に大流行したあんぱんが、酒まんじゅうをヒントに作られていたり、日本の製菓学校では菓子とパンどちらの作り方も学ぶことができたり。“菓子パン”なるジャンルが独自に発展してきた日本では、菓子とパンが密接に結びつき、親戚のような関係にある。

戦後に学校給食制度が導入されたことで地域ごとにパン製造の需要が高まり、菓子作りの技術や道具を活かしてパン作りを始める和菓子店や洋菓子店が急増した。ドーナツが和洋菓子とパンの境界線を緩やかに行き来しながら愛されてきたのも、日本独自の菓子やパンの歴史に少なからず関係している。

家庭用おやつのレシピ本が流行し、アメリカ式のドーナツ専門店が誕生した高度成長期には、家庭でも作ることができたり、気軽に購入できるモダンで贅沢なおやつとしてドーナツは馴染みの存在に。そんな中、昔ながらの土地土地の店も“我が店の味”を生み出していく。あんこが自慢の和菓子店はあんドーナツを。海外のセンスや技術を取り入れながら洋菓子を作る店は洗練された素材や形を取り入れたドーナツを。

まちのパン店では、学校給食の献立で子どもたちに絶大な人気を誇る腹持ちのいい揚げパンや家庭的な味のドーナツをパンと並べて売り出すように。店ごとに違った味や形を確立しながら、日本各地でまちじゅうに、多様なドーナツが溢れていった。 

ご当地ドーナツの販売形式は主に2タイプ。ひとつは生菓子と同じような扱いで揚げたてを対面で販売し、賞味期限が当日中に限られているもの。地方発送をおこなわず、現地でしか味わうことができないから、ローカル色もより濃厚だ。もうひとつは、袋や箱に詰められた、数日は日持ちがするもの。

スーパー、コンビニ、駅の売店でも取り扱いがあったり、取り寄せ可能なものもある。こちらは日や土地をまたいで持ち運びができるから、旅先のお土産にもってこい。私自身がそうであるが、長年変わらない昔ながらのパッケージデザインのファンも多い。

ここで紹介している以外にも、その店その土地ならではのドーナツは、まだまだあまた存在している。地元でも旅先でも、あらゆる店で意識して、ドーナツを探してみてほしい。

お土産に選びたい
地元代表袋入りドーナツ

〈わらく堂〉クリームあんドーナツ(北海道)

厚さ1cmのホイップクリームを、こしあんを詰めた生地でサンド。小麦、砂糖、牛乳、バター、卵、小豆、すべて北海道産。

〈三松堂〉あんドーナツ(秋田)

大正13(1924)年創業の老舗和菓子店のあんドーナツは、体積の7割近く詰まったこしあんが特徴的。パッケージは卵パックに、レトロなグラフィック。

〈三恵商事〉ベビーアンドーナツ(埼玉)

1963年の創業時からあんドーナツ一筋。直径2cmほどのサイズ。40年以上試行錯誤されてきた材料のバランスが秀逸。

〈羽馬製菓〉あんドーナツ(富山)

合掌造りで有名な五箇山で40年以上愛されている名物揚げパン。あんドーナツには珍しく、粒あんが入っている。

〈リョーユーパン〉マンハッタン(福岡)

九州のソウルフードであるさっくり食感のドーナツはパン生地とビスケット生地の2層仕立て。ビターなチョコがアクセントに。

現地で食べたい
超ローカルドーナツ

〈朝日堂〉アメリカンドーナツ(北海道)

半月状の揚げパンにカスタードクリームを詰めた逸品。材料は十勝産を使用。ほかにも生クリーム、カボチャあん、チョコレートなど7種類。休日は1日3,000個も売れるという。

北海道〈朝日堂〉アメリカンドーナツ
「生地とクリームのバランスが完璧。油を吸いすぎていないのも嬉しい」。143円。

〈ロンパル〉ハニードーナツ(大阪)

みたらし団子から着想を得て作られた、50年近く愛されるドーナツ。揚げたての状態で、蜂蜜をかける。

大阪〈ロンパル〉ハニードーナツ
「作りたては、中は生地の旨味、外は蜂蜜の甘さがそれぞれ引き立つ。時間が経つと、生地に蜂蜜が染み込んで二度おいしいです」。120円。

〈フロイン堂〉あんドーナツ(兵庫)

行列の絶えない食パンの名店。食パンと同じ生地を使っているため強い歯応え。揚げた後にシナモンシュガーをまぶしてあるのも良いアクセントに。

兵庫〈フロイン堂〉あんドーナツ
「生地のしっかり感、もっちり感は、まさに噛むのを楽しむためのドーナツです」。170円。

〈住田製パン所〉ネジパン(広島)

大正5(1916)年創業の歴史あるベーカリー。生地はパンと同様オリジナルブレンドの酵母で発酵。粉砂糖を使用するネジパンが多い中、昔ながらの上白糖をまぶしている。

広島〈住田製パン所〉ネジパン
「ジャリジャリとした砂糖と強いもっちり感は、まさに王道の揚げパン」。180円。

〈福住フライケーキ〉フライケーキ(広島)

昭和22(1947)年創業。洋菓子店と和菓子店で修業した初代が考案。白絞油で揚げているため、油切れが良く軽やか。

広島〈福住フライケーキ〉フライケーキ
「表面のカリッとした口当たりはまるで揚げまんじゅうのよう。油を吸い込みすぎず、あんこも甘味が控えめでペロリと食べられます」。90円。