立って!駅にさあ!4時の彼氏走れ!彼女朝に消えてった
「立って駅にさあ4時の彼氏走れ彼女朝に消えてった」。実はこれ、上から読んでも下から読んでも同じ文章、回文。言葉について、リズムについて、2人が考えることって?
満島ひかり
連載を始めるときに又吉さんと一緒に「回文の文章は回文だけで完結しているより、想像の余白がある方がよさそう」という話をしまして。
又吉直樹
回文だけで完結しすぎていると、物語に広がりがなくなって、誰が書いても似てきそうだなと思ったんです。
満島
私が一人で作っていた回文は、もうちょっとポエムになるというか、詩的な感じもありました。だけど、又吉さんと一緒に連載にすることを意識して、もっとリズムをつけようかななんて、また違った感じも生まれたと思います。
又吉
「メカとか駄目な、メダカとカメ」とか。絶対、回文がないとできない物語で。そういうものを求めていました。自分のテンションに合わせて書いていたし。
満島
5月のテンション。8月の、12月のテンション。連載ならではですよね。
又吉
書き手も、全部が一定ではない。それが面白かったです。ほとんどの物語は、悩まずにすぐに書けました。一番速かったのは「寝たきりくつ下 しっくり来たね」。
これは、ノートパソコンを開いてさあ書こうと思ったら、電話がかかってきて。自分の祖父が亡くなったんです。それで「おじいちゃん、亡くなったんや、おじいちゃんのことを書こう」と思って、物語の中のおじいちゃんに会いに行くという話を書きました。実際に祖父に会いに行ってはいないですけど、想像の中で会いに行ったみたいな感じで。保育所の運動会におじいちゃんとおばあちゃんが来てくれて一緒に帰った、という自分の体験をそのまま書いたんですけど。
ほかにも回文で記憶が引っぱり出されることがあったり、満島さんの回文はそういうものを作りやすい何かがある。
満島
回文に限らず、面白いリズムの言葉が好きです。ちょっと楽しくなる言葉を組み合わせて、それがうっかり日常に馴染むと嬉しくなります。
気分に色をつけるみたいに言葉を使って、友達と話したり。その会話がリズムになって、どの人ともそれぞれでしか出てこないグルーヴが生まれて。この本も気軽に言葉と遊べる本になったと思います。
よければ近くにいる人の名前を裏返したり、回文も作ってみてください……実は「又吉直樹」だけがどうしても裏返らなくて。それだけが強烈にストレスです(笑)。