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ものの個性を生かして飾る、壁収納。〈dieci〉のオーナー・田丸祥一さんと堀あづささん夫妻の自宅

新しい住まいをスタートするとき、そこにはなにもないただの壁があります。真っ白いキャンバスに絵を描き始めるときのように、どうしようかと悩むのがその使い方。壁は、目隠しや仕切りになる一方で、自分の好みに合わせて表現することができるフリースペース。飾る、収納する、敷き詰める、引っ掛ける、色を添える……。ルールはなにもないから、いかようにでもできるのも大きな魅力。まっさらな壁に世界をつくることは、暮らしの空間を彩るということ。住まい手の美意識が宿る場所。

Photo: Norio Kidera, Masanori Kaneshita / Text: Chizuru Atsuta

ものの個性を生かして飾る、壁収納。

大阪のセレクトショップ〈dieci〉のオーナー田丸祥一さんと堀あづささん夫妻の自宅は、1970年代竣工のヴィンテージマンション。そのリビングでひときわ存在感を放つのは、壁一面に設えられたオープンキャビネットだ。壁と棚にまつわるこんなエピソードがある。

家のコアとなるオープンキャビネット
家のコアとなるオープンキャビネット。リサ・ラーソンのユニークピースをはじめとする北欧作家の陶器やガラス、アダム・シルヴァーマンなど西海岸作家の作品、民藝の器やカチナドール、チェンマイで見つけたオブジェなど、洋の東西にかかわらず、所狭しと並ぶ。

今からおよそ20年ほど前、海外の雑誌で目にした、壁に棚板だけが付いたローズウッドの飾り棚。一目惚れした2人は、同じものを作ろうと決意。しかし、棚板を支えるL字の金物を隠すように作るには、壁面の厚みを足さなければならず、最終的には壁を剥がし、構造体を6本ほど埋め込む大規模工事となってしまった。堀さんいわく「当時、親が水回りのリフォーム用にと援助してくれたお金を全部使ってしまって(笑)」。数年後、雑誌で見た棚は、デンマークの家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーのものだったと知る。

そんな思い入れの強いオープンキャビネットを中心に、家中の壁には2人の審美眼にかなったものが無数に置かれている。

「手の届く距離に置いて眺めて楽しむのが我が家のスタイル。すべて“見せる”収納。壁に収納するという考えです」と堀さん。一方、「大量のものをごちゃっと面白く置きたい」とはディスプレイ担当の田丸さん。形、色、素材、作家の中から共通点を見つけ、ゆるやかにテーマを設ける。置いたり掛けたり、集合体にすることで物量はあるけれど散漫な印象にはならない。とにかくたくさんある状態が好きだという2人に壁とは何か、と問えば「ものの個性に合わせて表現できる場所」と返ってきた。

ベッドルームの壁にはお面の数々
ベッドルームの壁にはお面の数々。琉球張り子作家・豊永盛人の作品は特にお気に入り。一番左のアフリカ製のような作品はリサ・ラーソンのヴィンテージ。飾るときは、横とのつながりとバランス、色のグラデーション、正面から見たときの壁の白の見え方にもこだわる。