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こんな楽器もあったのか!?ジャズサウンドの世界を広げる楽器たち

ジャズの魅力は懐の深さ。多彩な楽器を柔軟に取り入れることで、サウンドの可能性を広げてきた。音楽評論家の後藤雅洋による「これもジャズ楽器?」。注目すべきミュージシャンも紹介します。

illustration: Fukiko Tamura / photo: Kazuharu Igarashi / text: Masae Wako

先生:後藤雅洋(音楽評論家)

「クラシックからヒップホップまで、あらゆる音楽を取り込んで進化するのがジャズの特徴です。特に近年のジャズミュージシャンは、楽器を混ぜて個性的なサウンドを作るのが非常にうまい!例えばチューバやハープといったちょっと意外な楽器を使うことで、サウンドの可能性を広げているんです」と語るのは音楽評論家でジャズ喫茶〈いーぐる〉店主の後藤雅洋さん。

「まずは重厚で迫力ある低音を奏でるチューバ。多様なスタイルのジャズが生まれているUKジャズ界で、シーンを牽引するテナーサックス奏者シャバカ・ハッチングスが、この楽器に着目したのですね。彼は、ヒップホップ出身のチューバ奏者テオン・クロスを自身のアルバム制作に誘いました。

実はチューバって、ジャズの原点であるニューオーリンズジャズでも使われていた楽器で。シャバカやテオンはその当時の雰囲気も取り込みながら、自分たちのカルチャーと融合させ、新たなサウンドに昇華させているわけです」

もう一つの注目株はハープ。クラシックの印象が強い楽器の筆頭だ。

「ぽろんぽろんというドリーミーな音色は、いわゆるジャズ的な音ではありません。でもだからこそジャズに取り入れた時、非現実的でユートピア的な雰囲気を醸し出せるんです。この効果をうまく使ったパイオニアが、1950年代から活躍しジャズハープの女神と呼ばれたドロシー・アシュビー。彼女の志を受け継ぐハープ奏者ブランディー・ヤンガーも、今世界中から期待されている若手の一人だと思います」

楽器を知ることでジャズの多様性を楽しめる

「ところでNYのジャズ界では今、27歳のビブラフォン奏者ジョエル・ロスが注目されていますね。彼の出現でビブラフォンが気になり始めた人も少なくないと思いますが、実はジャズにおけるビブラフォンの歴史は長い。スウィングジャズ時代に活躍したライオネル・ハンプトン、マレットを両手に1本ずつ持つ奏法を広めたミルト・ジャクソン、片手に2本ずつ計4本持ってコード的な音を奏でたゲイリー・バートンなど、時代を遡って聴くのも面白いですよ」

一方、奏者は多くないもののジャズの多様性を知るうえで聴いておきたいのがアコーディオンやフルート。

「音自体にエキゾティックな個性があるアコーディオンは、ほかの楽器と簡単に混ざり合わないカッコよさを持っています。フルートはソフトなイメージの楽器ですが、ピリッと鋭い音や骨太な音を奏でる奏者もいて、その意外性がクセになる」

最後は、ベースからソロまで幅広く担う低音楽器バスクラリネット。

「ぜひ聴いてほしいのは、1940~50年代に活躍したエリック・ドルフィーのバスクラです。多くのミュージシャンがドルフィーの音を聴いて“バスクラすげえ!”と憧れ、真似しようとして、でも誰も追いつけなかった。それくらいすごくて怖くて稀有な存在。ジャズのいちばん大きな特徴である“個性的なこと”の意味を体感できると思いますよ」