PELLEGRINO(恵比寿/東京)
生ハム別立ての2部制コース。前人未到の高橋ワールド。
インタビューは恵比寿〈ペレグリーノ〉で行われた。1年のうち4ヵ月は海外、2ヵ月は地方を食べ歩く浜田さんが、東京で通う店の一軒だ。エミリア=ロマーニャ州パルマで修業した高橋隼人シェフの代名詞が、切りたてを提供する極薄の生ハム。
「軽い口溶け、鼻に抜ける香り。厚切りのイタリアの生ハムにはない、日本ならではの味ですね」今回、数ある店の中から「世界に自慢したい」店を選ぶにあたり、「イタリア人に食べさせたい」を第一の条件に掲げた。加えて、日本のイタリアンをアップデートする店であること。
日本のイタリア料理のおいしさが世界トップレベルであることに浜田さんも異論はない。だが、これが諸刃の剣。「現地並みの味」と称される店にトラットリアやピッツェリアが多いため、“安くて旨いのがイタリア料理”というイメージが定着してしまった。
「それがここ数年、ようやく高価格帯の店もきちんと評価され始めている。しかもここに紹介する通り、伝統的なリストランテの流れを汲む店からコンテンポラリー、イノベーティブ・フュージョンまでバリエーションがあります」
日本でガストロノミーが語られるとき、蚊帳の外にあったイタリア料理が、高級フレンチや寿司、懐石料理と肩を並べ、世界から食べ手を集めつつあるというのだ。
「この流れが定着してほしい。そうすれば日本のイタリア料理は、次のステージに進むはずです」
全6席の店の真ん中に鎮座するのはイタリア〈ベルケル〉社のスライサー。2018年12月に導入した最新モデルは、精度が段違い。個々の生ハムが持つ旨味や香りをさらに繊細に表現できるようになった。「食材の持ち味を、最高地点で楽しませる」という考えは、生ハムに限ったことではない。ぎたろう軍鶏でとるブロードは塩だけで12時間以上かけて。手打ちパスタは、生地からゲストの目の前で。
最近は、魚にも注力。高級寿司店に負けない逸品を仕入れ、試行錯誤の中から「生ハム×魚」の一皿も誕生した。寝かせた魚と生ハムは熟れた旨味が通じ合う。「極上の生ハムと、日本の魚。この組み合わせは誰にも真似ができない」と、浜田さん。
それぞれをより集中して味わってもらおうと、コースを2部制に。前菜数品、パスタ、メインを味わう1部の後に、生ハム尽くしの2部がスタートする。パルマの味に軸足を置きながら、道なき道をひた走っている。