いまどき銀座人観察で見えた、
多国籍な銀ぶら風景
いまどきの“東京らしさ”を観察すべく、銀座にやってきた。渋谷、新宿、秋葉原、吉祥寺、西新井……。ほかにもいろいろな性格の街が東京にはあるけれど、ひとつに絞りこむとなるとやはり銀座、という感じがする。
この企画のパートナー、なかむらるみ画伯とはおよそ7年前にも銀座の街頭でマンウォッチングをしたことがある。わが著書『東京考現学図鑑』というのにその模様は収録されているが、「考現学」(*1)と名づけて、そういった調査研究を試みた先駆的人物に今和次郎(*2)というユニークな学者がいる。
今先生の詳しいプロフィールは割愛するが、関東大震災後の復興期の銀座に研究チームで繰り出して、街頭を往来する人の姿、想像される職種などを図解とともに細かくレポートした人なのだ。
ま、これはそんな今先生の考現学調査をヒントにした銀座散歩エッセーといったもの。こちらは僕となかむら画伯、編集のK嬢(もう一人、Nという男性編集者がいたが、散歩の途中で姿をくらました)という小ぢんまりした編成で、2018年1月下旬の某日にササッと銀座を歩き回って、目に留った人を記録してきた。
4丁目交差点から
アップルストア
さて、この調査日の前日、東京はよりによって大雪に見舞われた。人なんて歩いているだろうか……。若干不安な心もちで午前11時、集合場所の4丁目交差点(*3)のところに来てみると、さすが銀座の歩道にはもう雪はなく、案外人は出ている。
まず僕の視界に引っかかったのは、日が差してきた和光(*4)のショーウインドー前で、メロンパンを囓(かじ)りつつ佇む男。このメロンパン、よく見ると、中に夕張メロン色のクリームが入ったもので、おそらくすぐ隣の〈木村屋〉(*5)の「酒種メロンパン クリーム入り」という品種と思われる。
黒いデイパックの脇に水のペットボトルを仕込み、色落ちしたジーンズの足もとはスタンスミス(足首をズームアップしたところ、色は定番の白+グリーンだが、側面にSTAN SMITHの印字が認められない)。ずっと“人待ち”とふんでいたのだが、スマホをチラ見した後、すーっとひとり新橋方向へ去っていってしまったから、単なるメロンパン好きのウォーカーかもしれない。
和光前のメロンパン男も、もしやアジアの他国からの観光客だったのかもしれないが、次に訪れた3丁目角のアップルストアはほぼ8割方、海外の観光客でにぎわっていた。ちなみにこのビル、もはや誰もが“アップル”と言うだろうが、持ち主は明治時代創業の老舗洋品店(現・子供服店)・サヱグサ(*6)であり、いまも物件の名義はサヱグサビル。
アップルはお客とともに、その場でジョブズみたいなプレゼンを始めそうな店員たちが独特のムードを醸し出している。プレゼンは始めなかったものの、急にキーボードのパネルを叩いてジャズ演奏を始めた店員がいてびっくりした。
再び4丁目交差点に戻ってきて、斜向い5丁目東側のGINZA PLACE1階の日産ショールームで、なつかしい初期フェアレディ・スポーツの展示を眺めていたら、フェアレディ以上に目についたのが、長身の3人娘。
お揃いの大型サングラスに、これまたお揃いのブーツ(オシャレな長靴風だったから、前日の雪に対応して調達したのだろう)、スタバのカップを手にした子が1人、聞こえてくる言葉はチャイニーズだが、色白のルックス、シャキッとした歩行スタイルからして、中国東北部(大連やハルピン)から訪れたファッションモデル……といったセンではなかろうか。
まさに肩で風切るように6丁目方向へ歩いていくから、お目当てはGINZA SIX(G6)だろう……と予想していたら、案の定、銀座通りに面したG6・1階のイヴ・サンローランに堂々と入っていった。彼女たちがサンローランの服を物色するさまをウインドー越しに眺める。
松坂屋の時代、このあたりで〈ねんりん家〉のバームクーヘンがぐるぐる回っていたのだ……と思うとなんだか感慨深い。