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ロボット工学者・石黒浩が選ぶ、現代を生き抜くためのブックガイド。キーワード:「命の拡張」

変化のスピードが速い、時代の転換点に立つ私たちは今、どんな本を読めばいいんだろう。科学技術の進化により、人間の機能や能力はますます拡張され、サイバー社会を目指すムーンショット計画なども進む中、未来の命について考える。「命の拡張」をテーマに、ロボット工学者の石黒浩さんに5冊を選書してもらった。

illustration: Ayumi Takahashi / text: Asuka Ochi / edit: Emi Fukushima

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テクノロジーの進化によって、人間は永遠の命を得るのか

左から『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ/著、『ホモ・デウス:テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ/著、『世界を変える100の技術―日経テクノロジー展望2023』日経BP/編
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(1)『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ/著 土屋政雄/訳
1990年代末のイギリスで、「提供者」と呼ばれるクローン人間の介護人だったキャシー・H。彼女の回想で、生まれ育った施設での日々が語られる。ハヤカワepi文庫/1,078円。

(2)『ホモ・デウス:テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ/著 柴田裕之/訳
イスラエル生まれの歴史学者、哲学者の、人類の誕生から文明による進化の歴史を書いた『サピエンス全史』に続く第2弾。未来に起こることを歴史から読み解く。上下巻。河出文庫/各990円。

(3)『世界を変える100の技術 −日経テクノロジー展望2023』日経BP/編
メタバース、最新医療、量子コンピューターなどの最新テクノロジーをわかりやすく解説。幅広い分野から世界を変える可能性がある技術100件を50人の専門家が選んでいる。日経BP/2,640円。

これまで人間は、テクノロジーや機械で命を拡張し、進化してきました。薬やメガネ、義足なども、その一部。そこが動物や植物との大きな違いであって、人生100年という年齢もまだ始まりにしかすぎないかもしれません。今の医療技術が進化すれば、寿命は150歳くらいまで延びるといわれています。

また、地球の温暖化が急激に進んだりした場合、人間は何らかの方法で進化しなければ滅亡しますよね。でも、体を機械に置き換えたりすれば、もっと長く生きられるかもしれない。未来に10万年とか100万年、生きる人間が出てきたとしてもおかしくはないと思います。

(1)は、臓器提供のために生まれたクローン人間がどのような感情を持ち、一つの命として生きるのか。描写力がものすごくリアルで、数あるフィクションと比べてもレベルが違う。物語のラスト、海で壊れた難破船をぼーっと眺めるシーンは、僕の脳裏にずっと焼きついています。『クララとお日さま』もそうですが、カズオ・イシグロ作品を読むと、人間とクローンやロボットらの感情や未来の姿が、ありありと伝わってきます。

(2)は、人類の歴史を整理した『サピエンス全史』の著者が、現在からその先までを書いた本。最後に人間が機械の体になって、ものすごく長い寿命を持つようになるというオチが、僕の見るビジョンと全く一緒なんですね。歴史学者が長い人類史の流れで見ても、人間というのが機械をどんどん取り込んで生き延びてきているのは明白で、だからこそ、未来におけるテクノロジーとの関係を想像できたんだろうなと思うんです。

(3)は、人間の命が技術によって拡張されるとすれば、どのようなものでといった時に、それらを一通り知ることができる。技術をまとめた本が多くあるなかで、一番きちんとまとまっているなと思います。

小説も映像で観ると考えたり想像したりする余地がなくなってしまいますが、本で読むことで、未来の新世界を他人のイメージに頼らずシミュレーションできる。未来の答えはわからない。自分で作るものですからね。

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