これからも大好きな漫才で遊び続けたい
橋本 直
しかし、石田さんも僕も年齢的には「中年の危機」なわけで。よう飽きもせず漫才やってんなとか言われることもありますけど。
石田 明
飽きる人は、すごく飽きるよね。
橋本
でも僕らは漫才に飽きてない、漫才に「飽きる」っていう概念がないから、飽きる人がいるのは何でやろうってところですね。
石田
飽きないのは、たぶん橋本も一緒やと思うんやけど、俺は「毎日違う」って思えてからなんですよ。 毎日違うことをやってる。「毎日、同じことの繰り返しや」って思ってしまってる人ほど、パフォーマンスも毎日一緒になってきて、たまに起こるハプニングだけを楽しんでる人になってしまうという感じがするね。
橋本
自分の表現ツールが漫才じゃなくてもいい人は、漫才に固執しないのかもしれない。漫才って、ずっと遊べるおもちゃなんですよね。テレビで瞬発力勝負でバンと出たりとか、ほかのところでもっと快感を覚えたら漫才をする必要がなくなるのかもしれないですけど、やっぱり漫才には、漫才でしか気持ちよくなれない瞬間がありますもんね。
石田
あるある、めちゃくちゃある。

橋本
やっぱり生の舞台で目の前のお客さんに向けてやるっていうのが。
石田
この間、単独ライブの写真を何個かSNSに上げたら、それ見た人から「ネタやってるときの顔、ほんま少年やね」って言われた。たしかにそうかもと思って。ほんまにただ遊んでるだけなのよね。
橋本
テレビのひな壇とかだと、自分の立場や共演者の並びを考えて「もうけっこうしゃべったな」「なんか自分ばっかりやな」とか「今日はまだまだやな」「後半でしゃべろうかな」とか気遣うけど。
石田
抑えようとか思うもんね。
橋本
でも漫才は、ネタやってる間は相方と2人だけで誰も入って来ないんで。誰も邪魔してこない気持ちよさはあるかもしれないですね。もちろん寄席はいつもあるから、飽きてくる人がいるのもわかるんですけど、そこでやり続けるのがすごい大事やと思うんです。そしたら新しいネタをしたいってときにも、ちゃんと体がついてきますよね。
でも、いくらテレビにずっと出て、毎日めちゃめちゃ脳を使ってても、漫才をやってなかったら漫才の体力は落ちてくんですよ。「おもろいことを言う」のと「おもろい漫才をする」っていうのは、ぜんぜん違うスペックなんで。だから「漫才からは離れても脳は使ってるし」と思って、「じゃあ今度、新しいネタをしたい」ってなったときに、たぶん体が、しゃべりがついてこないんですよ。
石田
ほんま、そう思う。
橋本
だから、風邪気味とか、奥さんに怒られたとか、相方と喧嘩したとか、毎日コンディションは変わるけど、その日その日のコンディションで雨の日も風の日も舞台に立ち続けたら、結果、新ネタをするときにはもうバチって体が仕上がってる。

「相方の失敗」も漫才なら楽しめる
石田
それで言うと、井上はプライベートのコンディションが完全に漫才に影響するタイプ。今までも「元気ないな」「機嫌悪いな」ぐらいはよくあったんやけど、この間、奥さんと喧嘩したとかでめっちゃ凹んでて。たしかその翌日が寄席で、「はい、どうもー」って舞台に出て、ふと井上を見たらスーツが上下で違ってた(笑)。
橋本
もう、上の空どころじゃない(笑)。
石田
そう。もう空(そら)っていうか、ただの空(カラ)になってた。
橋本
でも、ちょっとおもろいっすよね。事故的に変なときっておもろい。
石田
そうそうそう。そのときは俺が井上に「チャック開いてるで」って伝える練習をするというネタやってんけど、それ以前にスーツの上下が全然違う(笑)。
橋本
「チャックが開いてる」どころじゃない(笑)。
石田
いやあ、あれはおもろかったね。
橋本
僕も、鰻が一昨年の正月にパーマ失敗したんですよ。それを舞台で「パーマ失敗してないか」ってちょっといじったらバッて受けたんで、「それ、おまえどこでやったんや」「美容師さんに何見せたんや」って5分くらい続けて。そしたらめちゃめちゃ受けたんだけど、ネタやる時間が残り5分しかない(笑)。これはしょうがないですよね。人間がやってることだから。
石田
でも、それこそ生だからやもんな。
橋本
はい、生なんで。「ちゃんとネタしたいのに、このパーマ邪魔やな」と思いながらも、そこだけ限定の“パーマ漫談”みたいなのが生まれた。でも、長丁場になると後半が疲れてくるから「パーマで5分もつから助かるな」って。しかも繰り返すごとに仕上がってくるから、どんどんいい出来になってて、それは助かりましたね(笑)。

「ぶつぶつ言ってるおじいちゃん」になりたい
橋本
石田さんは今年、新しくやりたいこととかって、あるんですか。
石田
今年もいろいろ挑戦するんだけど、1つは海外で言葉を使わずにコメディをやって、結果を残して、そのお客さんに「俺を見に日本に来てください。今日は100分の1の力も出してませんから」って言いたい。
橋本
たしかに、日本の漫画とかアニメがめっちゃ好きで日本に興味を持ったっていう外国人は多いですもんね。同じことがお笑いで起こってもおかしくない。
石田
橋本はどうなん?
橋本
なんですかね。もう、くだらないギャグとか、細かいことが気になるとか、そんなのをずっと言っていきたいですね。そのままおじいちゃんになれたらいい。でも、いつもぶつぶつ言ってるおじいちゃんは嫌ですかね。
石田
いや、橋本みたいなやつがNGKのロビーにずっといて、若い子たちに「あのさあ」とか言ってるのはええんちゃうか(笑)。
橋本
それ、嫌がられないですか。誰も楽屋に来ないみたいになったら寂しいですけど。
石田
それもおもろいやん。気付いたら同世代がずらっと並んでて。

橋本
結局、同世代だけでしゃべってる(笑)。まあ今回、出版っていう機会をいただいて、今まで漫才を見たことがなかった人が本から入ったみたいな話も聞くくらいで、本を書くっていうのはすごい刺激的な仕事でしたね。
石田
文字にするっていうのはいいよね。
橋本
最近またちょっとずつ、思ったことだけの日記も書き出してるんですよ。今日の出来事ややったことじゃなくて、そのとき思ったことをただ書く。漫才以外に新しい表現ツールをもらった感じで楽しいですね。
石田
それはショートコンテンツ的な感じで?
橋本
そうです。『細かいことが気になりすぎて』みたいに4000字書くほどのことでもないけど……みたいなものをちょっと短いバージョンで書いてます。
石田
そんな本があってもいいかもね。
橋本
めっちゃ薄い本にして出すとかね。漫才は続けつつ、新しい表現もチャレンジしていきたいです!
