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僕らがシティポップを好きな理由。若き音楽家、関口スグヤとジンジャー・ルート

ソウルやファンクなどの洋楽に影響を受けた日本の音楽が「シティポップ」と呼ばれ、世界中で愛されているというのはよく聞く話。しかし、こんなにもチャーミングにその愛を表現する若き音楽家たちがいるのをご存じだろうか。彼らの溢れる愛の理由を尋ねた。

photo: Koh Akazawa / text: Izumi Karashima, Ryohei Matsunaga / cooperation: Hiroko Yabuki

ジンジャー・ルート

アメリカの音楽を日本風にしている日本ポップスの「味」がすごく好き。

カリフォルニア州在住の中国系アメリカ人のシンガーソングライター、ジンジャー・ルートことキャメロン・ルー。昨年YouTubeに「ローレッタ」なる楽曲をアップし、日本の80年代歌謡番組風のMVが話題となった。どう見ても日本の音楽が大好きな人物である。

「『ザ・ベストテン』『歌のトップテン』『夜のヒットスタジオ』がめっちゃ好き(笑)。昭和の雰囲気が好きなんです。特に70年代後半〜80年代半ばくらいの。だから、『ローレッタ』のMVは、トップテンに出ていた石野真子さんのイメージで歌ってるんです」

夜ヒット!昭和!石野真子!そんなワードが出てくるなんて。現在26歳。日本に住んだ経験はないけれど、子供の頃から日本のアニメに親しんでいた。『美少女戦士セーラームーン』『新世紀エヴァンゲリオン』『美味しんぼ』などなど。日本の音楽に衝撃を受けたのは高校生の頃。

「YMOがアメリカの音楽番組で『ファイアークラッカー』を演奏する映像をYouTubeで見つけて。めっちゃかっこいい!と。で、日本の音楽をもっと知りたくなってどんどん掘っていったんです」

YMOから細野晴臣を知り、ティン・パン・アレーを知り、荒井由実、大貫妙子、山下達郎、竹内まりや、ピチカート・ファイヴ、キリンジなどを聴きったという。最近では坂本慎太郎もお気に入り。

「もともと彼らの音楽ルーツは欧米にある。ソウルミュージック、モータウンサウンド、あるいはビートルズ。それを日本風にツイストしてるところにめっちゃ惹かれるんです。僕、“味がある”っていう日本語のフレーズが好きなんですが、日本のポップスの“味”がすごく好きなんだと思います」

関口スグヤ

僕の好きなシティポップは暮らしのリズムに寄り添う温かいもの。

10代半ばで大瀧詠一、細野晴臣の曲をカバーして発表。関口スグヤは、まさにシティポップの申し子のような18歳だ。

「音楽の原体験はテレビ番組『クインテット』で聴いた昭和歌謡でした。その後、5歳でビートルズに出会ってからはそれ一本だったんですが、中1の頃にはっぴいえんどを聴いて衝撃を受けたんです。初めて作った日本語のオリジナル曲を“はっぴいえんどみたい”と人から言われたのが出会ったきっかけでした。僕がビートルズに影響されて作ったオリジナル曲にも似たようなぎこちなさがあったので、すごく親近感を覚えました」

はっぴいえんどのメンバーのソロ活動を追ううちに、自分が好きな音楽がいつしか「シティポップ」と呼ばれブームになっていた。彼にとって、シティポップのサウンドは「癒やし」だったと語る。

関口スグヤ
一面に広げたレコードはすべて私物。「レコードを聴くと、手に入れるまでの苦労や買った時のうれしさまで思い出します」

「生まれた時からデジタルな環境に囲まれてきたので、自分の暮らしのなかにそうじゃないものがあるとすごくうれしかった。レコードもそういう存在です。サブスクとは違って探すのにも手間がかかるけど、聴く行為に人間的な温かみがある。『大瀧詠一ファースト』(1972年)のレコードを手に入れた時はうれしすぎて、なかなか針を落とせなかったくらいです」

海外ではきらびやかな80年代の作品が人気だが、彼が惹かれているのは、シュガー・ベイブや荒井由実らが70年代に残した作品の方。

「聴いて思い浮かぶのはトレンディな都会じゃなくて、素朴な郊外の街の風景。そういうイメージが、郊外に住む僕の生活のリズムに対して程よい距離感で寄り添ってくれる。僕が作りたい音楽にも、フォーキーでナチュラルな感じが根底にあるんです」