Listen

かせきさいだぁさん、いま流行りのシティポップってどういう音楽なんですか?

フェス、キャンプ、ビーチ、プール。もうすぐ夏がやってくる。素敵なサマーにつきものなのは、極上な音楽。でも音楽の海は広大すぎて溺れかけるから、梅雨空の今のうちに、たくさんの音楽に触れておきたい。偶然の出逢いが、この夏を最高にしてくれる。きらめく音楽がきっと見つかる。

Photo: Koh Akazawa / Text: Izumi Karashima

シティポップとは何か?なるほど。難しいお題です。
でも僕、「ミスターシティポップ」と自分で名乗っちゃってますからね(笑)、お答えしないわけにはいきません。

で、とりあえずウィキペディアで「シティポップ」を調べてみたんですけども(笑)、「都会的な洗練された音楽」とありました。でもそれは聴いた感じだけのことですから。根っこのところはどうなんだろう。ということで、シティポップを僕なりに考察してみます。

そもそもシティポップは日本にしかない言葉、日本だけのジャンルです。海外にはない。アメリカにもない。じゃあ、シティポップの元といわれているAOR、アダルト・オリエンテッド・ロックはどうなのか。
AORといえば、ドナルド・フェイゲンなんかを思い浮かべます。でも、調べていくと、結局それも日本独自の解釈によるジャンルだと。日本でそういった音楽を売りやすくするために、考案されたキャッチコピーだったんですね。

だから、シティポップも、レコードを売りやすくするためのキャッチコピーだったと思います。じゃあ、どこの誰がいつ作ったのか。それは定かじゃありません。僕が子供の頃は、フォークやロックではない、演奏やアレンジに凝った音楽はすべて「ニューミュージック」と呼ばれていました。

1980年代初頭、僕が中学生ぐらいの頃に、それが少々細分化され「シティポップス」が加わった。当時、ニューミュージックと呼ばれていたのは、オフコース、ゴダイゴ、アリスなどでした。新枠の「シティポップス」には、大滝詠一、山下達郎、ユーミンこと松任谷由実、南佳孝……そういった人たちだったと思います。
ちなみに当時は、シティポップではなく「シティポップス」で「ス」がついてました。「ス」はいつ抜けちゃったんですかね(笑)。

じゃあ、シティポップとはどんな音楽なのか。それはきっと、90年代の「渋谷系」と同じだと思います。あれはそもそもHMV渋谷店のバイヤーだった太田浩さんが自分の好きな音楽を勝手にプッシュして売ってただけ。それが「渋谷系」と呼ばれ、一人歩きしてしまった。だから「渋谷系サウンド」なんて最初から存在しない。シティポップサウンドも同じです……と言うと話がここで終わりますが(笑)。

僕が、シティポップでビンビンくるのは誰かというと、山下達郎さん、達郎さんや大貫妙子さんがいたシュガー・ベイブ、荒井由実時代を含めたユーミンさん。すると、その元になにがあるのかと辿れば、ティン・パン・アレー、キャラメル・ママに行き着く。つまり、細野晴臣さんまわりです。結局、始祖鳥ははっぴいえんどなんです。

じゃあ、はっぴいえんどはシティポップなのか。いや、ロックです。つまり、シティポップが「洗練された音楽」と言うのならば、細野さんたちがキャリアを重ねるうちにどんどん洗練され、進化したものなのではないかと。

僕の勝手な解釈では、シティポップは「ブラック・アイド・ソウル」だと思います。これは僕の造語。白人によるソウルミュージックを「ブルー・アイド・ソウル」と言います。ダリル・ホール&ジョン・オーツ、ジャミロクワイなどがそうですね。とすれば、シティポップは日本人のソウルミュージックだから「ブラック・アイド・ソウル」。

そう、シティポップにはソウルへの愛が重要です。ソウル・ラブ。僕の好きなシティポップはみんなソウルミュージックに影響を受けているし、その根底にはソウル・ラブがある。でも、いくらソウルを追究しても黒人にはなれない。ちょっとずつズレていってしまう。

つまり、何を言いたいかというと、「間違う方が面白い」ということです。間違うというと語弊がありますが、期せずして違うものに転がっていく方が面白いんです。

20年ほど前、僕がラップを始めたときもそうでした。ヒップホップが好きだからラップをやりたい。でも黒人みたいにできない。じゃあ、あえて間違った解釈のラップをやろう。間違うのが面白いんじゃないかと。

それで、はっぴいえんど周辺の音楽が好きだった僕は、松本隆さんの詞を切り貼りし、はっぴいえんどやシティポップとヒップホップの融合を目指したんです。いまもその姿勢は変わってません。
ということで「ソウルの解釈を間違っちゃったのが日本のシティポップ」が僕の仮説です。いかがでしょうか。