Listen

Listen

聴く

『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』で世界中で人気沸騰中の音楽を再発見する

世界中を席巻するシティポップの現状を体系的にまとめた一冊の本が発売された。シュガー・ベイブからYogee New Wavesまで、アルバム単位で100枚を紹介。エバーグリーンからまだスポットの当たっていない楽曲まで、ブームを振り返るように丁寧に編纂した音楽ライターの栗本斉に話を聞いた。

text: Katsumi Watanabe

現在、日本のシティポップが世界中で話題沸騰している。具体的な例を挙げると、2021年にレーベルが公式に発表した竹内まりや「Plastic Love」(1984年)のフルバージョン動画の総再生回数は、瞬く間に200万回を記録し、コメント欄には英語からロシア語、アジア各国の言葉など、世界中から感想が溢れている。

また、カナダ出身のシンガーソングライター、ザ・ウィークエンドは、亜蘭知子「Midnight Pretenders」(1983年)をサンプリングした新曲「Out Of Time」を発表。原曲のリズムを活かしたメロウなグルーヴで、リリース直後に各サブスクリプションのチャートで急上昇した。

2022年入ってから3ヵ月で起きた事柄を見ただけでも、かなり異様な盛り上がり方をしているのがわかる。こうした現象を日本の国営放送がニュース番組でも紹介し、日本の相変わらずな逆輸入好きには苦笑を隠せないが、確かに日頃から日本語のポップスに親しんできた我々も、もう少し細かくシティポップを聴き直してみると、新しい発見があり、おもしろいかもしれない。

HMV渋谷の売り場
ロングランセールを記録し、再発売を繰り返している大貫妙子『SUNESHOWER』、竹内まりや「Plastic Love」など。世界中から注文が絶えないという。(協力:HMV record shop 渋谷)

山下達郎と大滝詠一が築いたシティポップの基礎。

音楽ライターの栗本斉が『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』を上梓した。この著書では、諸説あるシティポップの起源をシュガー・ベイブ『SONGS』(1975年)に規定。

さらにフォークからジャズ/フュージョン、ニューウェーブまで、さまざまなジャンルの音楽家に影響を及ぼしたが、音楽的な特徴は「パッと聴いた瞬間に摩天楼を想起させる都会的かつ、南国のパームツリーも思い浮かぶような音楽」とした。1975年から80年代、90年代を通過し、日本国内でシティポップリバイバルが本格化する2010年代、そして2021年のYogee New Wavesのマスターピース『WINDORGAN』まで、全100枚のアルバムを選出している。

『 「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』書影
シティポップの名アルバム100枚を解説。表紙は鈴木英人が担当。¥1,100(星海社新書)

「シティポップの起源は、本当に諸説ありますが、個人的な音楽経験から『SONGS』に決め、100枚の作品を選んでいきました。僕は1980年代後半のバンドブーム最中に高校時代を過ごしていましたが、思春期の尖った感性のせいでしょうか、同級生たちの流行をよそに80年代前半の音楽を聴くようになりました。

大滝詠一『A LONG VACATION』(1981年)や山下達郎『FOR YOU』(1982年)など、試行錯誤を重ねた末に生まれた完成度の高いアルバムに魅了されて。特に達郎さんの作品はブラックミュージックから強い影響を受けていて、高校生にとっては都会的で、洗練された大人の音楽という感じ。

音楽面では豊かで心地のいいリズムが好きになり、現行のブラックコンテンポラリーや、その後のレアグルーヴのムーブメントなど、ブラックミュージックに入っていくことができたんです。

達郎さんと大滝さんの影響を踏まえると、70年代に大滝さんが立ち上げたレーベル〈ナイアガラ〉から、達郎さんはシュガー・ベイブのメンバーとしてデビューしているので、シティポップの起源を『SONGS』としました」(栗本)

ビジュアルイメージは伝説の雑誌から!?

「シティポップとパームツリーという印象は、当時はFMラジオの番組表を掲載していた『FM STATION』(1981年創刊)という、今では信じられない雑誌があって(笑)。

その表紙をイラストレーターの鈴木英人さん(山下達郎『FOR YOU』のジャケットも担当)が手掛けていて、パキッとした青空の常夏なイラストが毎号表紙を飾っており、一般的にも『FOR YOU』の大ヒットとリンクして、シティポップ=夏やリゾートというイメージになっていったそうです」(栗本)

FM STATION CD
懐かしの雑誌『FM STATION』を賑わしたヒット曲をコンパイルしたCD。鈴木英人の描くイラストが一世を風靡した。

シティポップは
アルバムでじっくり楽しむ音楽。

2000年代にDJカルチャーの中で起きたシティポップリバイバルでは、松原みき「真夜中のドア」(1979年)や大上留利子「Sexy Woman」(1977年)といった曲単位での評価が顕著だった。しかし、「シティポップの基本」ではアルバム単位で、まだスポットの当たっていない楽曲まで、丁寧に解説している。

「ヒットシングルも楽しいのですが、アルバムはトータルで作られているイメージが強く、一枚通してじっくりアーティストの世界観を堪能することができた。もちろん、アルバムのみの収録も多く、歌謡曲やアイドルのフィールドでも、素晴らしいサウンド多かったんですよね。

筒美京平自らピアノを弾き、海外のミュージシャンを起用した岩崎宏美『WISH』(1980年)。井上鑑や林立夫といった腕利きのメンバーが参加した寺尾聰『Reflections』(1981年)。「ルビーの指環」や俳優としての存在感が強いのですが、本当に素晴らしいアルバムです」(栗本)

アイドルのアルバムにも名曲が!?

「シングルヒットの命題を課されたアイドルたちも、アルバムにはシティポップ人脈の作曲家、ミュージシャンが数多く参加しています。

松田聖子の作品には作詞が松本隆、作曲家陣に大滝詠一や細野晴臣、呉田軽穂(松任谷由実)が参加。杏里や竹内まりやなどに楽曲を提供する林哲司が全編を手掛けた菊池桃子『OCEAN SIDE』(1984年)にも、やはりアルバムならではの名曲がたくさんありますね」(栗本)

『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』では、数多のガイド本で常連のYMOにかわり、細野晴臣&イエロー・マジック・バンドや高橋幸宏『Saravah!』(1978年)が。また、フリッパーズ・ギターではなく小沢健二『LIFE』(1994年)が紹介されている。

どれも、摩天楼やリゾートを想像させる作品だ。過不足なくシティポップがどういう音楽なのか、解説しているように思えるが…...。

「泣く泣く掲載を断念したアルバムの方が多いんですよ。YMO『浮気なぼくら』にはシティポップ的なアプローチもありますが、やはりテクノポップという印象の方が強い。
それから、今海外で人気が高い高中正義や松岡直也のようなジャズ/フュージョン系も、迷った末にバッサリ落としました。その代わり、北国のシュガー・ベイブこと稲村一志と第一巻第百章『Free Flight』(1977年)、達郎さんも惚れ込んだ東北新幹線『Thru Traffic』(1982年)といったメジャーではないけど、素晴らしい作品を掲載することにしました。
まだまだ紹介したい王道のアルバムはありますし、ネオ・シティポップのシーンもどんどん進化しているので、この100枚で完結することなく、アップデートしていきたいと思っています」(栗本)