プロのサバ食い2人によるサバ対談
小林崇亮
日本では馴染み深いサバ食については、奈良時代の木簡や、平安時代の公文書・延喜式にも記録が残されています。自分の周りを見てみても、サバが嫌いという人ってほとんどいない。みんな知っている魚だし、出身地を問わずよく食べられている。だけど、あまり意識されてこなかったサバという存在に、消費者が楽しんでアプローチしていくようになった、というのがここ3〜4年の流れだと思います。
池田陽子
楽しみすぎるのか、サバに含まれるDHAとEPAが効きすぎてしまうのか、「ごちそうサバです」「ごくろうサバです」なんて挨拶はもはや当たり前。サバ好きが集まるとダジャレが止まりません。
小林
全日本さば連合会の発足は2013年3月8日のサバの日でした。そもそもは僕がサバ缶にはまり、サバについて調べていったらその魅力にとりつかれてしまって。飲み会に集まる仲間にそんな話をしたら、周りが自分も自分もとカミングアウトしたところから始まっています。
池田
私は小学2年生で、父の大阪土産のバッテラでサバ愛に目覚めたものの、そこからしばらく離れていて。薬膳アテンダントや食文化ジャーナリストの仕事を通して、再びサバに出会うことができました。
小林
サバ食文化は全国的なものですが、それに加えて、サバ信仰が現存する地域も少なくないんです。徳島の鯖(さば)大師本坊をはじめとして、サバを持った弘法大師=鯖大師の伝説は、青森から広島まで広く残っているし、神事にも使われている。
池田
石川には450年続く鯖踊りの神事があって、福井にも江戸時代から伝わる神事が残っています。かつては貴人の食べ物とされていた青魚のなかでも、どうやらサバだけは天皇から庶民まで、広く食べられていて、イワシやアジとは違う受け止められ方をしていたようですね。
小林
格上なのか格下なのかは難しいところですが、庶民も食べていたからこそ全国に広がり、現在にまで残されているんだと思います。
ブランドサバが誕生し1980年代にブームが到来!
池田
食べられ方や加工方法もさまざまな日本各地のサバが、ブランドサバとして認知を広げていくのが1980年代後半です。大分「関さば」に始まって、高知「土佐の清水さば」、宮城「金華さば」、北は北海道の「北釧鯖(ほくせんさば)」まで、天然モノのブランド化が加速する。
一方、九州などでは養殖モノのブランドサバも誕生しました。現在ブランド化されているものに加えて、次世代として注目されているサバもあり、三重・南伊勢の「おかげ鯖」もその一つ。
小林
茨城〈吉久保酒造〉からはサバ専用日本酒が生まれました。その名もSABA de SHU。ダジャレをかましながらもそこは酒造りのプロ。キリッとした飲み口で、サバの旨味と脂によく合います。こちらはもともと、地元の干物専門店〈津久文〉と一緒にサバの酒びたしを開発していた酒蔵です。サバが面白いのは、海沿いだけでなく内陸や山奥にもサバ食文化が根づいているというところ。
福井の若狭と京都を結ぶ鯖街道(*1)が代表的ですが、サバを運んだ街道沿い、かつて宿場町があった地域に、固有の郷土料理が残っているんですよね。
池田
サバは足がはやいので、丸ごと焼いて浜焼きサバに、ぬか漬けにしてへしこに、と保存方法も多様になりました。岡山ではサバを一尾丸ごと使った尾頭付きの姿寿司が、和歌山から奈良へ向かう地域には、柿の葉寿司が残されています。長野のタケノコ汁、山形のひっぱりうどんなど、サバ缶が郷土料理の材料になっているところもありますよ。
小林
尾頭は付いていませんが、金棒すし さば包みは、ご飯を上下から挟み込む贅沢スタイルで鯖サミット(*2)でも大人気です。
家で、出先で、旅先で。幸せな一食を約束するサバ料理
小林
難しいことを考えず、シンプルに楽しむなら、まずはサバ缶から。僕のイチオシは〈福井缶詰〉です。これはやばい。水煮、味噌煮、醤油煮、唐辛子を合わせたものなど全部で6種類あるんですがどれも美味。価格を考えれば手詰めではないと思うんですが、脂ののったノルウェーサバが缶にぴっちり入っています。
池田
いったん蒸して、雑味を出してから加工するから、透明感がまたすごいんですよね。
小林
これは皿に出して、部位ごとに味わいたい。背中側のちょっと歯応えのあるところはご飯と一緒に海苔(のり)で巻き、腹のところは脂を楽しむためにそのまま食べる。一通り食べたら、かけらを汁ごとご飯にかけ、大根おろしを加えてお茶漬け風に。1缶でご飯3杯いけますよ。
池田
1缶1,080円のサバ缶が、長崎の松浦で作られている旬(とき)さば缶詰。九州や西日本ではサバは生食が主流(*3)ですが、お刺し身で食べられているブランドサバを缶詰にしてしまったという、かなりのレア&プレミア物です。
小林
白飯好きとしてはサバの干物も外せません。〈かねはち〉をはじめ、静岡・沼津の冬場の干物は、身がパッツンパッツンでとにかくジューシー!夏と冬では脂ののり方が違っていて面白いんです。
池田
王道の味わいで驚かされるのは嬉しいですよね。江戸川区にはおいしい塩焼きを食べさせてくれる〈鯖の助〉というお弁当屋さんがあって、注文後に、大ぶりの切り身を炭火焼きにしてくれる。焼き加減もホクホクでご飯もたっぷり。育ち盛りも満足のボリュームです。
市ヶ谷〈根本〉の味噌煮は、3日がかりで作られる、口の中で雪のようにとろけていく逸品です。言葉を失うほどのおいしさに、味噌煮観を覆されました。
小林
サバ料理のバリエーションを体感するなら、思い切って青森の八戸まで飛びましょう。サバ料理専門店〈サバの駅〉では、“さばかみさん”と呼び称えられる研究熱心な料理人さんによる絶品サバ料理が食べられます。なかでも、ふるさと祭り東京 全国ご当地どんぶり選手権で、2年連続グランプリをとって殿堂入りした、八戸銀サバトロづけ丼は必食です。
池田
サバのお刺し身をゴマと醤油ダレと薬味で食べるゴマサバを目当てに、博多を巡るのもおすすめです。材料も作り方もシンプルなのに、店ごとのバリエーションがすごい!特に〈海鮮食堂い志い〉のゴマサバは、長崎の五島沖釣りの大きなサバのハラミを使っていて、プロ野球選手も通い詰めると評判です。
小林
島根県浜田の「浜田のサバ」もいい。夏でも脂質30%とかなり脂がのっているんですが、脂の質がさっぱり穏やかで旨い。島根は1人あたりのサバ消費量が全国トップで、すき焼き風にしたり塩辛にしたり、ここでしか出会えない食べ方もいろいろ。水揚げ量日本一の千葉・銚子の「銚子極上さば」もおすすめです。エリア的に生食は難しいサバなのですが、特許を取った熟成塩タレに漬けて冷凍&熟成させたものが最高!
池田
特にサバ寿司。あの口当たりはもうシフォンケーキの域ですね。
小林
コリコリもちもちの食感を楽しむなら、高知「土佐の清水さば」。刺し身をゴマ油と塩で、レバ刺し的に食べてみてほしい。
池田
さらなる食感を求めるなら「屋久島くびおれサバ」をぜひ。ゴリッとした口当たりと脂のバランスを味わうお刺し身は、現地でしか食べられない、貴重なお味です。