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伊賀大介があの映画の衣装を語る。『はじまりのうた』『her/世界でひとつの彼女』etc.

スタイリスト・伊賀大介さんに敬愛する映画監督について聞いてみた。作り手ならではの一歩踏み込んだ視点による監督論。

初出:BRUTUS No.927『映画監督論。』(2020年11月1発売)

text: Tomoko Ogawa

ストーリー自体に作家性が出ているものが主流だった映画業界ですが、最近は、衣装、美術、音楽など微に入り細を穿つまで、作家性がちりばめられた作品が注目されています。

なかでも、勢いづいているのがインディ系や女性の監督。例えば、学園モノだと以前は体育会系ならスポーティ、プロムクイーンはかわいい系というキャラがわかりやすい衣装だったものの、オリヴィア・ワイルドの『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』では、キャストも衣装も属性にとらわれず、様々なスタイルが入り交じっていることに驚きました。

多様性が重要視される今の時代に、まさに出るべくして生まれた作品。衣装だけでなく部屋の美術も含め、様々なレイヤーで、登場人物のリアリティを構成している。グレタ・ガーウィグもそうですが、監督が細部にきちんと目配せしている作品は、着ているものを見れば、その人が何を主張しているかがわかる。

これまでの映画監督が作り上げてきた役と衣装の固定観念から解放されて、登場人物のリアルを追求する監督が増えています。

『はじまりのうた』
監督:ジョン・カーニー

キーラ・ナイトレイが古着屋で衣装をセレクト。

「NYに住んでいるミュージシャンに見えるように、と監督に言われ、キーラとスタイリストが古着屋で買ってきたというカジュアルな衣装がリアルで本人にも似合っていてすごく好き。正直、僕がやりたかったことです」。

失意のシンガーソングライターと落ちぶれた音楽プロデューサーが起こす小さな奇跡の物語。'13米。

『マリッジ・ストーリー』
監督:ノア・バームバック

日常生活を思い起こすリアルなスタイリング。

「おそらく監督はパートナーのグレタ・ガーウィグと一緒に作っているんじゃないか(笑)というスタイリングのリアルさ。ハロウィンに子供にビートルズのサージェント・ペパーズのコスプレをさせて、主人公もデヴィッド・ボウイになるセンスが激烈に良い」。

夫婦の離婚訴訟を通じて、愛のかたちを問う。'19米。

『her/世界でひとつの彼女』
監督:スパイク・ジョーンズ

引き算のルールで近未来感を出した手腕に脱帽。

「エキストラにデニムとキャップとネクタイの着用を禁止し、襟の小さなシャツを着せて近未来感を出したというのは見事なアイデア!AIの彼女に自分と同じ風景を見せようと、ポケットを底上げするために留めた金色の安全ピンもスタイリングとして効いてます」。

人口知能型OSと人間との恋のゆくえを綴る。'13米。

『レディ・バード』
監督:グレタ・ガーウィグ

甘すぎないコーディネートが彼女たちの普通。

「見事な制服の着崩し(ギプス込みの!)をはじめとした、超・自然体かつポップなスタイリング。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』でも、ジョーとローリーが衣装を交換し2人のつながりを表現していたのも見事でした」。

悩める高校生だったグレタ・ガーウィグ自身の自伝的作品。'17米。

『20センチュリー・ウーマン』
監督:マイク・ミルズ

これぞというバンドTの使い方にやられました。

「異なる世代を表す女性たちの衣装も良かったですが、主人公の少年が着ているトーキング・ヘッズのTシャツはそれじゃないといけない理由がちゃんと複数ある。迂闊に使われると時代錯誤になりがちなロゴや看板も彼は使い方をわかっているなと思いました」。

自身の母をテーマに、1979年という転換期を振り返る。'16米。

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
監督:オリヴィア・ワイルド

クラスタではなく、個々の個性が生きる衣装。

「パーティシーンは全員のキャラクターが服に表れていて素晴らしかった。また、昔なら男性に当てがわれていた役を女性が演じているんですが、彼女がフリンジのジャケットにデニムを合わせた男性的な格好なのも今っぽいですよね」。

青春を取り戻そうと奮闘する真面目系女子高生の友情を描く。'19米。