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新鮮ミルクのアイスを街でも夜でも牧場でも。北海道の本当においしいアイスクリーム7選

本当においしいアイスクリームを求めて、北海道へ。アイスクリームの歴史や文化に思いを馳せながら、ミルクやフルーツ、野菜など、新鮮な食材でできたアイスを、産地で味わう喜びを。

photo:: Jun Nakagawa / text: Masae Wako

舌の上で溶けるクリーミーな牧場ソフト〈美瑛放牧酪農場・美瑛ファーム〉

牧場のミルクで作ったソフトクリーム。なんて甘美なフレーズなんだろう。旅の始まりは北海道の中央に位置する美瑛・富良野エリアから。豊かな土壌、清冽(せいれつ)な水、上質な牧草で育つ乳牛の生乳。この町のアイスがおいしくないわけがない。

最初に向かったのは、旭川空港から車で30分ほどの丘陵地にある〈美瑛放牧酪農場・美瑛ファーム〉。4種類の牛が放牧されている牧場に、工場とカフェが隣接する。

美瑛放牧酪農場・美瑛ファーム
十勝岳連峰を望む〈美瑛放牧酪農場・美瑛ファーム〉では、ジャージー、ホルスタイン、モンベリアード、ブラウンスイスという乳牛4種を放牧。その生乳でソフトクリームを作る。

新鮮な生乳で作ったソフトクリームはふわふわ甘くて濃厚で、極上の生クリームを食べているよう。とはいえ後味はさっぱり。小さな女の子が「口の中でアイスが消えた~」と驚いていたけれど、まさに、舐めれば舌の上でたちまち溶けてミルクに戻るのだ。

「材料は生乳と砂糖だけ。一般的な製法と違って、ウチは真空濃縮でじっくり時間をかけて水分を抜くので、濃くてピュアなソフトクリームになるんです」とスタッフが言う。

真摯に素材に向き合うジェラテリア〈はっぱジェラート〉

一方、富良野駅近くの〈はっぱジェラート〉では、元パティシエの藤川高志さんが旬の果物や野菜を使ったジェラートを作っている。

「農家さんが15分圏内なのが富良野の魅力。傷みやすい果実も朝採りの新鮮な状態で届けてもらえます」

例えば有機栽培のアスパラガスは、繊維を程よく残してジェラートに。みずみずしさはもちろん、口の中で香りや食感が変化することにびっくりする。地元農園のイチゴで作るジェラートの、イチゴよりイチゴらしい甘酸っぱさもたまらない。

そうやって手間暇かけたものを、部活帰りの中学生が「3色盛りにしようかな」と、わいわい食べているのも微笑ましい光景。日常にアイスが溶け込んでいるって素晴らしい。

100年続く優しい味の“大正ロマンアイス”を〈アイスクリームパーラー美園〉

大正生まれのアイスを港町小樽のパーラーで

​​「甘くてしゃっこいアイスクリームのとりこになっていたであろう」
富良野から車で約2時間半。運河の町・小樽の都通り商店街には、明治の外交官・榎本武揚が「もし今の小樽に生きていたら」と妄想するパネルが掛けられている。“しゃっこい”は冷たいという意味の小樽弁だ。

かつて港町として栄え、舶来文化で賑わったこの町で、北海道初のアイスクリームを製造販売したのが〈アイスクリームパーラー美園〉。大正8(1919)年、外国船の乗組員から伝え聞いた製法を基に手作りしたそうだ。東京・深川で日本初のアイスクリームの工業化が始まったのが大正9(1920)年だから、それより早いことになる。

100年前と変わらぬ2種のアイスは、道産の牛乳とヨード卵、アカシア蜂蜜や柑橘を使った爽やかな味。「当時を知る地元のおばあちゃんの話を聞くと、何かいいことがあった日にはよく“美園へアイスクリームを飲みに行くよ”と言っていたそうです。自然のものだけで作るので、後で喉が渇かない。飲み物のようにさっぱりしているんです」

そう話す4代目の漆谷壽昭さんは、フランスで腕を磨いたパティシエでもある。が、「店の雰囲気も味も、変えたくはありません。新しさを取り入れればもっとおいしくなるかもしれないけれど、町の方々の大切な思い出も受け継いでいきたいんです」

北海道アイスも多様化時代。スイーツ激戦区・札幌へ

美瑛・富良野・小樽ののんびり旅から、終盤はアイス激戦区・札幌へ。1日2500個売れる日もある絶品ソフトで人気なのが〈八紘学園農産物直売所〉だ。学生と教員が牛を育て、エサとなる牧草やコーンも栽培。搾乳から加工まで一貫して行っている。搾りたての生乳をすぐ加工できることも、おいしさの秘密だろう。

搾りたてミルクの風味を再現したさっぱりソフト〈八紘学園農産物直売所〉

搾りたての生乳で作るツキサップソフトクリーム(コーン)各400円。カップもあり。

「ウチの乳牛は牧草と穀物を食べるので、牧草だけで育つ牛のグラスフェッドミルクよりクセがなく、日本人の味覚に馴染むはず」と乳牛科の先生。なるほどソフトクリームも、コクはあるのに臭みがなく、スッとほどけるきれいな味なのだ。

地元に愛される実力派ジェラート〈ジェラテリア クレメリーチェ〉

そんな「きれいな味」を追求する情熱がここにも!と感動するのが、〈ジェラテリア クレメリーチェ〉。道央・余市町出身の店主、彫谷徳一さんは、地元の新鮮な食材を使った本物のジェラートを、という一心で、イタリア各地や日本全国のジェラート屋を巡り歩いた職人だ。

研究を続けて辿り着いたのは、控えめな甘味と滑らかな口溶け。リンゴのソルベを食べれば、皮の食感と蜜のような甘さに頰が緩むし、冷たく優しいミルクジェラートが喉の奥を通る気持ちよさは、ちょっと格別だ。

左は北海道産のくるみ、右は北海道産の新鮮な低温殺菌牛乳を使ったフレッシュミルク。2種盛り(コーン)550円。

札幌シメパフェの聖地が、より快適に進化〈パフェ、珈琲、酒、佐藤〉

さて、ラストは札幌のど真ん中でシメとしたい。お洒落にシメたいなら、ブームが続くシメパフェ文化の立役者〈パフェ、珈琲、酒、佐藤〉へ。2024年4月に移転した新店舗では、夕食後の2軒目としての本格パフェやお酒だけでなく、ランチや仕事終わりのパフェだって楽しめる。

塩キャラメルとピスタチオ1,712円。十勝のブランデー「島梟」1,980円と合わせて。

リピート必至。めくるめく大人のアイス&バー〈アイスクリームBar HOKKAIDO ミルク村〉

未知の世界に酔いしれたいなら、すすきのの〈アイスクリームBar HOKKAIDOミルク村〉へ。創業は1995年。店内に並ぶお酒から2、3種選び、スプーンですくったソフトクリームに一滴かけて味わう。味が劇的に変わり、楽しい!

最近パリや東京で広がる〝酒&アイス〞を、「いい酒と牛乳のおいしさを同時に紹介したい」と29年も前に発想し実践していたなんて恐るべし。

ファンシーな入口にドキドキ。

旅を振り返れば、北の大地には多彩なアイスが集まっていた。昼アイスや夜アイス、街アイスに牧場や農学校のソフト。この多様さもまた、おいしさの秘密であり、アイス好きが抗(あらが)えない北海道の引力なのだ。