大正生まれのアイスを港町小樽のパーラーで
アイスクリームパーラー美園
100年続く優しい味の“大正ロマンアイス”を
「甘くてしゃっこいアイスクリームのとりこになっていたであろう」富良野から車で約2時間半。運河の町・小樽の都通り商店街には、明治の外交官・榎本武揚が「もし今の小樽に生きていたら」と妄想するパネルが掛けられている。“しゃっこい”は冷たいという意味の小樽弁だ。
かつて港町として栄え、舶来文化で賑わったこの町で、北海道初のアイスクリームを製造販売したのが〈アイスクリームパーラー美園〉。大正8(1919)年、外国船の乗組員から伝え聞いた製法を基に手作りしたそうだ。東京・深川で日本初のアイスクリームの工業化が始まったのが大正9(1920)年だから、それより早いことになる。
100年前と変わらぬ2種のアイスは、道産の牛乳とヨード卵、アカシア蜂蜜や柑橘を使った爽やかな味。「当時を知る地元のおばあちゃんの話を聞くと、何かいいことがあった日にはよく“美園へアイスクリームを飲みに行くよ”と言っていたそうです。自然のものだけで作るので、後で喉が渇かない。飲み物のようにさっぱりしているんです」
そう話す4代目の漆谷壽昭さんは、フランスで腕を磨いたパティシエでもある。が、「店の雰囲気も味も、変えたくはありません。新しさを取り入れればもっとおいしくなるかもしれないけれど、町の方々の大切な思い出も受け継いでいきたいんです」
北海道アイスも多様化時代。スイーツ激戦区・札幌へ
美瑛・富良野・小樽ののんびり旅から、終盤はアイス激戦区・札幌へ。
八紘学園農産物直売所
搾りたてミルクの風味を再現したさっぱりソフト
1日2500個売れる日もある絶品ソフトで人気なのが〈八紘学園農産物直売所〉だ。学生と教員が牛を育て、エサとなる牧草やコーンも栽培。搾乳から加工まで一貫して行っている。搾りたての生乳をすぐ加工できることも、おいしさの秘密だろう。

「ウチの乳牛は牧草と穀物を食べるので、牧草だけで育つ牛のグラスフェッドミルクよりクセがなく、日本人の味覚に馴染むはず」と乳牛科の先生。なるほどソフトクリームも、コクはあるのに臭みがなく、スッとほどけるきれいな味なのだ。
ジェラテリア クレメリーチェ
地元に愛される実力派ジェラート
そんな「きれいな味」を追求する情熱がここにも!と感動するのが、〈ジェラテリア クレメリーチェ〉。道央・余市町出身の店主、彫谷徳一さんは、地元の新鮮な食材を使った本物のジェラートを、という一心で、イタリア各地や日本全国のジェラート屋を巡り歩いた職人だ。
研究を続けて辿り着いたのは、控えめな甘味と滑らかな口溶け。リンゴのソルベを食べれば、皮の食感と蜜のような甘さに頰が緩むし、冷たく優しいミルクジェラートが喉の奥を通る気持ちよさは、ちょっと格別だ。

パフェ、珈琲、酒、佐藤
札幌シメパフェの聖地が、より快適に進化
さて、ラストは札幌のど真ん中でシメとしたい。お洒落にシメたいなら、ブームが続くシメパフェ文化の立役者〈パフェ、珈琲、酒、佐藤〉へ。今年4月に移転した新店舗では、夕食後の2軒目としての本格パフェやお酒だけでなく、ランチや仕事終わりのパフェだって楽しめる。

アイスクリームBar HOKKAIDOミルク村
リピート必至。めくるめく大人のアイス&バー
未知の世界に酔いしれたいなら、すすきのの〈アイスクリームBar HOKKAIDOミルク村〉へ。創業は1995年。店内に並ぶお酒から2、3種選び、スプーンですくったソフトクリームに一滴かけて味わう。味が劇的に変わり、楽しい!
最近パリや東京で広がる〝酒&アイス〞を、「いい酒と牛乳のおいしさを同時に紹介したい」と29年も前に発想し実践していたなんて恐るべし。

旅を振り返れば、北の大地には多彩なアイスが集まっていた。昼アイスや夜アイス、街アイスに牧場や農学校のソフト。この多様さもまた、おいしさの秘密であり、アイス好きが抗(あらが)えない北海道の引力なのだ。