香りを纏ったミルクと果物のアイスが、ドリンクと生み出す、新しい世界
床から天井まで左官で仕上げた、グレージュ一色の空間。カウンターにはお酒のボトルが並び、アイスのショーケースは奥に隠れている。何の店だろうと訪れたお客さんに、「アイス屋なんですよ」と和やかに話すのは店主・藤田澄香さん。
ワインバーやケータリングに携わってきた彼女にとって、アイス作りは料理の延長だ。レストランのデザートに作ったのが始まり。「白いミルクのキャンバスに食材の香りを映す感覚が面白くて」、たちまち夢中に。独学で自身のアイスを確立し、ポップアップから〈kasiki〉をスタート、2022年に店を構えた。
「素材を生かしたいから、ベースは牛乳、生クリーム、砂糖のみ。添加物は使いません」。脂肪分の違う生クリームを適切にブレンドすることで、増粘剤なしでも滑らかに。
少量ずつ作るから保存料も必要ない。ハーブやスパイスの香りを纏(まと)わせたベースに、丁寧に下処理した旬のフルーツをたっぷり混ぜ込み、食材の新たな魅力を引き出していく。さらには果物の冷たいスープなど、皿盛りのデザートも展開し、アイスの可能性を広げている。
旬の香りに満ちたアイスの楽しみをより増幅させてくれるのが、ナチュラルワインやシングルオリジンのコーヒー、お茶とのペアリング。アイスにワインとは意外に思えるが、実際に試すと、ワインの酸味や渋味が果物の味を際立たせたり、奥行きを深めたりしてくれる。
これほどワインと好相性なのは、スパイスやハーブの香りを纏い、果実が生きる藤田さんのアイスならではだ。
コーヒーは「果実味ときれいな余韻が、うちのアイスと似ているんです」と言う福岡〈COFFEE COUNTY〉の豆で淹(い)れる。クリアなコーヒーはアイスの繊細な香りを邪魔せず、フルーティさを相乗する。
「ペアリングを聞かれたら、アイスに共通する香りがあるものをお薦めしています。でも、こうでなければと厳密に考えるより、自由に選んで新しい味を発見してもらうのが一番」。
アイスのカジュアルさはそのまま、ペアリングがアイスだけでは辿り着けない世界へ没入させてくれる。
〈kasiki〉が提案するアイスペアリング
アイスペアリングの理論と実践、ときどき気分
季節の食材の個性を引き出す、ナチュラルワインとソーダ、クリアなコーヒー。