Read

Read

読む

奇奇怪怪の百貨戯典:羽生善治から考える芸術家論

Podcast番組「奇奇怪怪」のMONO NO AWARE・玉置周啓とDos Monos・TaiTanが、予算100円以内で売られている中古書を今この時代に読み返す連載の第20回。前回の「何者でもない過去と向き合うモラトリアム論」を読む。

text & edit: Daiki Yamamoto

連載一覧へ

TaiTan

いやあ、面白いね。この連載で読んだ本の中でも一番かもしれない。

周啓

面白かったね。

TaiTan

今回は羽生善治さんの『勝ち続ける力』を読んだわけですよ。この本の主題は「人は芸術を生み出すときに何を考えているのか?」という話で。羽生さんが将棋を打つときの感覚を言葉にすればするほど、それはほとんど競技というよりは、芸術に近い領域の人間の思考に近づいてくる。つまり対戦相手はいるんだけど、結果として勝ち負けすらも超越したところに思考があるんだよ。

周啓

誰と戦ってるかといったら、それはほとんど将棋の神みたいな……。戦ってるというか、将棋の神に導かれている。

TaiTan

将棋の対局をしているけど、羽生さんは同時に「美しさ」も追求している。でも事実として対戦相手に打ち勝ちたいという、勝負師としての自我もある。知的熱狂と勝負師としての野生性が、羽生さんという一人の人間に同居しているよね。

周啓

なるほど。

TaiTan

芸術の話に戻ると、「美」っていうのは人間の存在に関わらず初めからそこにある。だから芸術家は神に導かれるようにその輪郭で形作っていく。一方で、己の意思を腕力でキャンバスに叩きつけたいという欲求もある。そこには“無私”と“エゴ”との両方が同居していて、つまり羽生さんがやっていることと同じなんだよ。

周啓

今の時代、勝負に勝つ確率だけを考えれば、効率的な手はたくさん用意されているらしいんだよね。ただ、羽生さんはそういう舗装された道から外れて未舗装の道へ突き進むこともある。勝ち負けではない楽しみを自分の中心に置いているから、そういう手が打てるんだろうね。

TaiTan

いやあ、とにかくすごい。すごい本でした。これだけ伝われば満足です。

羽生善治/柳瀬尚紀『勝ち続ける力』
羽生善治/柳瀬尚紀『勝ち続ける力』

連載一覧へ