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音楽家・細野晴臣が語る映画監督論。音楽センスのいい監督とは?

音楽家・細野晴臣さんに敬愛する映画監督について聞いてみた。作り手ならではの一歩踏み込んだ視点による監督論。
初出:BRUTUS No.927『映画監督論。』(2020年11月15日号)

text: Izumi Karashima

映画監督と作曲家の幸せな関係は、20世紀を彩る出来事として忘れられません。それはここでは語り尽くせない豊潤な世界です。そして21世紀になり、映画音楽の大半は、いわゆる“劇伴”として映画をもり立てる役割が定着しました。

旋律を控え、邪魔にならず、音響としての最大効果を受け持つようになり、一定のアルゴリズムに支配される傾向に。かつて主流だった映画音楽のロマンティシズムは、ジュゼッペ・トルナトーレ作品におけるエンニオ・モリコーネの『ニュー・シネマ・パラダイス』('88)が最後だったでしょう。

それに対する少数の作家の試みに注目するなら、ポーランド映画『COLD WAR あの歌、2つの心』を挙げておきます。監督のパヴェウ・パヴリコフスキは、音楽を“劇伴”ではなく、“映画の中の音楽”として生き生きと捉えていました。もう一つ、SFドラマ『メッセージ』のエンドクレジットで流れるヨハン・ヨハンソンの「カンガルー」も印象深かった。極めて現代的な響きを持った作品で、これには久しぶりにドキドキした覚えがあります。

『COLD WAR あの歌、2つの心』
1950年代、東西冷戦下のポーランドで出会ったピアニストとシンガーが再会と別れを繰り返す。ポーランドのフォークソングやマズルカなどの民族音楽、ジャズなど、音楽も要。
『メッセージ』
突如地上に降り立った、巨大な球体形宇宙船。言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)が謎の知的生命体と交流し、思惑を探っていく。2017年アカデミー賞音響編集賞受賞。

生涯に308本もの映画音楽を手がけた作曲家・佐藤勝は、“劇伴”という言葉を嫌い、自分は劇の伴奏を作ったことなどない、と発言しています。映画音楽は“音色”だとも。僕は中学生のとき、黒澤明の『用心棒』('61)の音楽を覚えようと映画館に計6回通いました。その作曲者が佐藤勝。“音色”が映画ととても共鳴していたことを今もよく覚えています。

音楽監督については、いささか不案内ですが、イギリスのコメディ映画『ファニー・ボーン/骨まで笑って』が気になります。僕はこの映画でレイモンド・スコットという稀有な音楽家を初めて知り、劇中に流れるスコットの代表作「The Penguin」に衝撃を受けました。映画は、アメリカのコメディの源流がイギリスであることを示し、歴代の天才コメディアンと、豊富な歴史的音源が網羅されています。

その音楽監督がジョン・アルトマンというジャズ・ミュージシャン。監督のピーター・チェルソムとともに選曲したのでしょう。この“選曲”こそが映画監督の音楽的センスが問われる大事な要素だと思うのです。

『ファニー・ボーン/骨まで笑って』
コメディアンのトミー(オリヴァー・プラット)は人気コメディアンの父の存在がプレッシャーとなり、ラスベガスでのステージで大失敗し逃走。幼少期を過ごしたイギリスを訪れる。悩めるコメディアンのスラップスティック・コメディ。'95英=米。