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ほしよりこのミスドエッセイ。「マイ ミスタードーナツ ダイアリー」

50年以上にわたり日本で愛されるミスタードーナツは、世代を問わず人々の思い出を作ってきました。『きょうの猫村さん』などで知られる漫画家のほしよりこさんには、どんな思い出が?ミスタードーナツとの思い出を綴ってもらいました。

text&illustration: Yoriko Hoshi / edit: Emi Fukushima

「マイ ミスタードーナツ ダイアリー」

子供の頃住んでいた家の近くにミスタードーナツがあって、家族と時々出かけた記憶がある。オレンジ色の光の中、木のカウンターに腰掛けてドーナツを食べていたと思うけど、私はあまり詳しいことを覚えていなくて、でも店内のなんとなく温かくオシャレな雰囲気を覚えている。

姉曰く、小さく丸いスツールとカウンターがアメリカみたい(行ったことないけど)で店のお姉さんがとっても優しかったらしい。その時、もらったミスタードーナツのロゴ入りカップを姉がずっと大切に使っていて、それが私が知るミスタードーナツの最初の景品だった。

中学生になるとお小遣いを貯めて友達と“ミスド”でお茶するのが私たちの楽しみで、お目当てはドーナツと同じくらい景品だった。オシャレなグッズはお弁当箱や折りたためるサンドイッチケースなどがあり、今も実家で使っていたりするから丈夫にできているなと感心する。他のキャラクターもあったけど、私が好きなのは断然原田治のグッズで、甘すぎないイラストや色使いが都会的でセンスが良くてちょっと背伸びした気分もあった。

その当時一番好きだったドーナツはオールドファッションで、サクッとした端っこのクリスピーさとちぎった時フワッと顔を覗かせる卵色のケーキのような生地の食べ応えが堪らなく好きだった。それにチョコが少しついたチョコファッションもよく食べた。

友達とドーナツを食べながらスクラッチカードを削り「あー!あと2点だった」とか「もう1点だけやからもう一つドーナツ買おうかな……あ、お金足りひん……」とか言いながら景品交換までの10点を集めるのに必死だった私たちに、隣の席の大学生くらいのカップルが「僕らのこれあげるわ」とカードをくれた時の飛び上がらんばかりの喜び。

高校生の頃、同級生がミスタードーナツでバイトを始め、ドーナツがお店で一つずつ粉から作られていることを知って、成形されたものが工場から来て並んでいると思っていた私は驚いた。だからあんなふうに軽やかでおいしいのだと納得した気がする。私もオールドファッションをチョコレートにつけてチョコファッションを作ってみたいとか、ふんわりしたドーナツの中にクリームを絞ってエンゼルクリームを作るのは楽しいだろうなとか想像して羨ましかった。

それに私はドーナツに必ず添えられるあれ、あの薄い紙をたくさんもらえるんじゃないかと思って彼女が羨ましかった。あの紙なんていうのだ?と今調べたら「サバーラップ」と呼ぶらしいです。私はあの紙が大好きなのだが、たくさん買っても少ししか入れてもらえないので、兄弟で奪い合ったりしたものだけど、バイトするとあれをたくさんもらえるのかなと友達に聞いたら、3枚ほどこっそり持ち帰ってくれて手帳に挟んで大事にしていた気がします。

ほしよりこ イラスト

私が通っていたいくつかのミスタードーナツはテーブルと椅子が木でできていて(木目調だったかもしれないが)小さなガラスの瓶に誰かが摘んできた野の花のように、黄色い花、ソリダスターが生けられていた。大人になってからもその空間がとても好きだった。ささやかながら生花が飾られ、木製の家具で美味しいコーヒーがおかわりもできる。

BGMは古き良きアメリカのオールディーズが流れて、そこにはなんだか既製品なのにしっくりと体に馴染むネルシャツのような心地よさがあった。大人になってからはコーヒーを飲みながら読書するために通い、たまには景品用のカードをかつての自分のような隣の席の子供に譲ることもあった。

壁にかかった〈ねむの木学園〉の絵も、木のテーブルも陶器のカップもそこで粉から作られているドーナツの軽やかさも、ガラスの瓶に入ったささやかな生花もそこに豪華さはなく素朴ではあるが平坦ではなく温かな質感があった。そういうところで本を読んだり作品のためのメモやスケッチをするのは贅沢な私一人の時間であったと思う。