子どものわたしに返る。
文・藤原さくら
いつもとおなじ部屋の輪郭が、やけにくっきりとしている。音楽の粒がポロポロと自分の内側からこぼれ落ちてきて曲になり、ここ最近で一番自分と仲良くなれたような感覚になる。
閑静な住宅街はしんと静まり返り、住人たちが夢の中を漂う中、わたしはひとりみるみると小さくなって、子どものように「なるほどー」とか「良いじゃん」とか呟く。童心に返る瞬間。わたしはそれがたまらなく好きだ。
夜の闇にひとりぼっちなのに、不思議と少しも寂しくなくて、どこまでも遠くへ行けそうな気分。音楽の海の中、わたしはあまりにも自由で解き放たれている。
大人になればなるほど、いつの間にか誰かの意見や常識に縛られるようになった。だんだんと麻痺して、自分の頭の中に色んな人を招き入れて、勝手に居心地が悪くなっているような日だってある。だからこそ時間を忘れて、この世界に自分とふたりきりみたいな、ひとりぼっちの夜がわたしには必要なのだ。
自分の生活や音楽にひとつひとつ丁寧に向き合って、良いじゃないのと言ってあげられたらと思う。余計なことばかり考えてしまうわたしを、そのまんまの「ひとり」にして、パカーンとスッピンにしてあげることは、楽しく長く好きなことを続けるための必須条件だ。
音楽はいつも、わたしを一音で小学生にも中学生にも変えてくれるし、平気で月へも地球の裏側へも連れて行く。なんなら憧れのあの人の少し散らかった部屋に誘ってくれることもある。わたしは、当たり前のような顔で、音楽の魔法にかけられる人間であり続けたい。夢の中みたいに、火星でお昼寝したり、恐竜と散歩したいし、本当の「ひとり」と「ひとり」になって、みんなと話せたら良い。