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音楽はいつだって“ひとり”に寄り添ってくれる。復刻した『ひとり』に藤原さくらが寄せるエッセイ

21世紀直前、音楽をみんなで聴く時代の終わりに、ひとりで聴くことについて考え制作された幻のディスクガイド『ひとり ALTOGETHER ALONE』が新装復刻。シンガーソングライターの藤原さくらさんにエッセイを寄せてもらいました。

text: Sakura Fujiwara

子どものわたしに返る。

文・藤原さくら

いつもとおなじ部屋の輪郭が、やけにくっきりとしている。音楽の粒がポロポロと自分の内側からこぼれ落ちてきて曲になり、ここ最近で一番自分と仲良くなれたような感覚になる。

閑静な住宅街はしんと静まり返り、住人たちが夢の中を漂う中、わたしはひとりみるみると小さくなって、子どものように「なるほどー」とか「良いじゃん」とか呟く。童心に返る瞬間。わたしはそれがたまらなく好きだ。

夜の闇にひとりぼっちなのに、不思議と少しも寂しくなくて、どこまでも遠くへ行けそうな気分。音楽の海の中、わたしはあまりにも自由で解き放たれている。

大人になればなるほど、いつの間にか誰かの意見や常識に縛られるようになった。だんだんと麻痺して、自分の頭の中に色んな人を招き入れて、勝手に居心地が悪くなっているような日だってある。だからこそ時間を忘れて、この世界に自分とふたりきりみたいな、ひとりぼっちの夜がわたしには必要なのだ。

自分の生活や音楽にひとつひとつ丁寧に向き合って、良いじゃないのと言ってあげられたらと思う。余計なことばかり考えてしまうわたしを、そのまんまの「ひとり」にして、パカーンとスッピンにしてあげることは、楽しく長く好きなことを続けるための必須条件だ。

音楽はいつも、わたしを一音で小学生にも中学生にも変えてくれるし、平気で月へも地球の裏側へも連れて行く。なんなら憧れのあの人の少し散らかった部屋に誘ってくれることもある。わたしは、当たり前のような顔で、音楽の魔法にかけられる人間であり続けたい。夢の中みたいに、火星でお昼寝したり、恐竜と散歩したいし、本当の「ひとり」と「ひとり」になって、みんなと話せたら良い。

「Last Nite」 The Strokes
人の気持ちが分からないのは仕方ないとしても、近頃は自分の気持ちすらよく分からない。無性にむしゃくしゃするし、分かりたくもない。どうしようもなく一人に感じる。相変わらず気分は晴れないが、それで良いような気もする。
「96 Days」 Mayra Andrade
「96 Days」 Mayra Andrade
たとえ君がいなくても日常は淡々と過ぎていく。バンドの演奏は、大雨でも快晴でもない何気ない一日を描いているよう。また今日も君を思い出してひとり、タバコを吸って少しだけ寿命を縮める。嫌な癖だけ残ってしまったなぁ。
「Love Me or Leave Me」 Nina Simone
一人で居ることなんて、これまでどうってことなかったはずなのに、あなたのせいで、「一人」は浮かび上がってくる。あなたが愛してくれないのなら、一人でいた方が良い。他の誰かと居るくらいなら、孤独の方が、全然良い。
「Shiojiri」 VIDEOTAPEMUSIC
自然と溶け合う。目を閉じれば、風景が浮かび上がってくる。わたしは確かにそこに居たことがある。一人というのは、なんと心地よいのだろうか。いつも遠くの街明かりと、ひとりぼっちのわたしを、人知れず繋げてくれる。

音楽はいつだって“ひとり”に寄り添ってくれる。復刻した『ひとり』に玉置周啓が寄せるエッセイ