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広島の山間部で古くから親しまれてきたワニ料理とは一体!?

「今日のワニは和歌山からか、これじゃカッコつかないな」。広島県の山間に位置する三次(みよし)市の三次水産・秋田清之さんがそう言いながら木箱を横倒しにすると、頭が落とされた巨大生物が滑り出してきた。和歌山県産の頭のないワニとは一体ナニ?

初出:BRUTUS No.867おいしい魚が食べたくて。』(2018年4月2日発売)

photo & text: Shogo Kawabata

「和歌山からのワニは、頭が落とされて届くんだ。高知や宮崎からのは頭がついてるんだけど。和歌山では、ワニの頭を食べる習慣があるからね。広島じゃ頭は食べないけど。昔は山陰の方から荷車を押して運んできてたみたい」

ここでいう“ワニ”とは実は“サメ”のこと。日本書紀の「因幡の白兎」にも「和邇(わに)」として登場するように、山陰地方ではサメをワニと呼ぶ。それが三次にも伝わっていたのだ。明治期の山陰では、フカヒレの輸出が盛んで、大量の水揚げがあった。

だが、ワニ肉を食べる習慣がなく、ほかの部位は捨てていたという。それを活用するために始めたのが、ワニ肉を三次などの山間部へ売りに行くこと。ワニはアンモニア成分が多く、冬なら半月、夏でも1週間は日持ちする。そのため、三次のような山間部でも刺し身で食べられる貴重な魚となり大歓迎された。今では山陰の水揚げは減ってしまい、前述の3県からの入荷が主だそう。

さて、市場見学のあとは、ワニを使った郷土料理の食べられる店、フジタフーズへ。地元密着の食材店で、併設の食堂では、様々なワニ料理を提供している。

「三次で食べられるのは、ネズミザメかアオザメですね。中でも、ネズミザメは、もちもちしていておいしいと人気があります」と、主人の藤田恒造さん。事前に読んだ本には“ワニ肉は独特のアンモニア臭がする”と書かれているものが多かった。ところが、実際食べてみるとまったく臭みがない。もちっとした食感の上質な白身魚だ。これのどこに臭みがあるというのか?

「やはり鮮度が大事。日持ちするとはいっても、何日も経つとアンモニア臭が出てきてしまいます。今は輸送手段が発達して、新鮮なワニが食べられるようになりましたからね。昔から食べてる地元の年配の方々は、少し日にちを置いて、アンモニア臭の出たクセのある味の方が好きだと言う人もいますけど(笑)」

盆や正月、そして、特に秋祭りにはワニの刺し身がないと始まらない、という三次のソウルフード。ご多分に漏れず、若者のワニ食離れも進んでいるそうだが、最近では、学校給食などにも採用されるなど、その魅力が再評価され始めている。