瞑想のような読書体験で自身の成長を再確認。
私にとって読書は、瞑想に近い行為なんです。特に一度読んだ本を読み返すのは、頭の中を空っぽにして余計なことを何も考えたくないとき。今回もそういうふうに読みましたね。村上さんの作品は言葉が美しくて、リズムもいいので好きなんです。
村上さんの作品を初めて読んだのは高校時代。理解できる物語ばかりじゃなかったけれどそれが逆に「こんな難解なものがヒットしているって、すごい」と気になって、発刊されると読むようにしていますね。そんな中で私にとって一番読みやすかったのが、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。2015年頃に、友人に借りて初めて読みました。
当時は社会人になりたてでまだ自分が大人であるという自覚や、社会やコミュニティの中で生きる難しさに対しての認識が薄かったように思います。だから主人公の苦悩に共感はできなかった。ただ学生時代に友人関係で悩んだときの気持ちなどは経験済みでしたから入り込めたのかもしれませんね。
30歳になった今読み返してみると、主人公のどこか諦観しているところや、人間関係を前に進めるときの逡巡が理解できるようになっていました。そんな自分に気がついて、「大人になったな」と経てきた時の流れを感じられましたね。エリが主人公を励ます台詞も、今の私自身が勇気づけられるような言葉が多く胸に刺さりました。
大人になると、友達を作るのも難しくなります。みんなどこかしら、「人と付き合っているようで、向き合ってはいない」という側面があるのではないでしょうか。そんな事実を、この本から投げかけられているのを感じます。
私個人的には描いてある以上の裏の設定などに仮説を立てて深読みする読み方はしないんです。正解はないし、作者にしかわからないことだから。無理に理解しようとせずに綴られている言葉と向き合って、堪能すること。その瞑想のような時間の贅沢さを再読で実感しました。