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平野紗季子のプリン道場。〈洋食 KUCHIBUE〉のレシピに挑戦!

昔ながらの味わいとスタイルでプリン好きを唸らせる〈洋食 KUCHIBUE〉のプリン。大ファンを公言する平野紗季子さんに、店主の坂田阿希子さんがレシピを直伝!濃厚な口当たりの秘密、教えてください!

photo: Naoto Date / text: Neo Iida

「人生でお菓子を作った記憶が全然ないけど、作りたいプリンがある!」

食の魅力をパンチラインたっぷりに伝えるフードエッセイストの平野紗季子さんは、実は自称“底辺料理人”。でも大好きな〈洋食 KUCHIBUE〉のカスタードプリンのまろやかな食感の秘密が知りたくて、ならば作ってみるしかない!と一路、代官山へ。真っ白な扉を開けると、「任せて!」と坂田阿希子さんの笑顔。

平野紗季子(左)、坂田阿希子(右)

KUCHIBUE式カスタードプリンの作り方

プリン作り 平野紗季子
師匠「慌てず、丁寧にね」 弟子「はいっ!」

材料(7個分)
・牛乳500㎖
・グラニュー糖70g(カラメル用)
・グラニュー糖100g(プリン液用)
・卵5個
・バニラエッセンス

プリン 材料

1.ボウルに卵を割り入れ、よく混ぜる。
用意した卵のうち、3個は全卵、2個は卵黄だけを取り出し、泡立て器でしっかりする。グラニュー糖(プリン液用)を入れ、さらに混ぜる。

プリン液 混ぜる

師匠

牛乳と卵とお砂糖ですぐ作れちゃうんだから。ほらほら、卵を割る!

弟子

ひえ〜、お手柔らかに!

こうして坂田さんの“プリン道場”に入門した平野さん。卵黄を取り出すのに苦戦し、正しい泡立て器の持ち方を教わりながら、卵と牛乳をボウルでシャカシャカ。

2.牛乳を温める。
鍋に牛乳を入れ火にかける。“沸騰する直前”まで温めればいいので火加減は自由。温まったらボウルに注ぎ、1の卵と混ぜ合わせてプリン液に。

牛乳を温める

弟子

師匠、生クリームは……?

師匠

使わないの。牛乳の脂肪分だけで十分まろやかになるし、クリーム入りのこってりプリンは好きじゃなくて。目指しているのは家庭科の授業で習う普通のプリン

あの素朴でこっくりとした味わいは、生クリームを使わずして生み出されていた!謎が少し解けて、平野さんも満面の笑み。

3.プリン液を濾す。
目の細かい濾し器を使ってプリン液を濾し、卵白の固まりを取り除く。液体の表面にできた気泡は、キッチンペーパーを落として吸わせる。

プリン液を濾す

4.バニラエッセンスを入れる。
3のプリン液に香りづけに数滴垂らす。坂田さんが愛用しているのは添加物不使用のインド産ブルボンバニラを使った《モンレニオン ヴァニラ》。

プリン液にバニラエッセンス

5.鍋にグラニュー糖と水を入れ温める。
鍋に水10㎖とグラニュー糖(カラメル用)を入れ、強火で焦がすように煮詰める。色が黒くなったら差し水で温度の上昇を止め、全体を均す。

カラメル作り

6.プリン型にカラメルとプリン液を注ぐ。
型をバットに並べ、5のカラメルソースを5㎜くらいの高さまで注ぐ。あらかじめ型の内側に薄くバターを塗っておくと、後で取り出しやすい。

カラメルを注ぐ

7.湯煎しながらオーブンへ。
ソースの上から4のプリン液を注ぎ、バットに沸騰した湯を注ぐ。目安は型の3分の1。オーブンに入れ、115〜120℃で45〜50分ほど温める。

プリンを温める

続いて味の要でもある焼き加減はといえば、「うちは低温&蒸し焼き!」と坂田さん。

師匠

「スチームサウナみたいに蒸気で蒸しながら焼くと、硬すぎず軟らかすぎない、抜群の弾力に仕上がるの」

8.硬さを見て取り出し、冷蔵庫で冷やす。
時間になったら取り出して硬さをチェック。指にくっついてこないくらいの弾力があればOK。湯煎のバットから取り出し、冷蔵庫で3時間冷やす。

プリンを取り出す

9.型から取り出す。
プリンが外れやすいよう、型の縁を指で押し込んでおく。器に型をのせて抱えるように持ち、手首のスナップを利かせて振り下ろすと上手に外れる。

プリン完成

焼き上がったら冷やして完成。さて、師匠直伝のプリンのお味は?

平野紗季子とプリン
弟子「人生初の自作プリン感慨深いです師匠〜」
坂田阿希子
ほら、簡単でしょ!

弟子

硬さと軟らかさのバランスが最高です!食感はありつつも、口の中でトゥルンとけて……。卵と牛乳と砂糖だけ、そして低温でじっくり。これが秘訣なんですね、師匠!

素材の味を引き出すべく、レシピはとことんシンプル。だからこそ、火を止めるタイミングも、プリン液を何度も濾す作業も、丁寧に積み重ねて初めて味と形が整う。プリン道、優しくも奥深き道なり!

プリン完成
素朴なプリンにゴテゴテした装飾は似合わない。〈洋食 KUCHIBUE〉で出しているカスタードプリン(660円)は、生クリームを絞り、缶詰のサクランボをのせただけのスマート仕上げ。

私はプリンが作れなかった。

文・平野紗季子

小学生の頃どハマりした児童書の一つに、お料理童話『わかったさん・こまったさんシリーズ』があった。遭遇する不思議な出来事を、彼女たちが料理やお菓子を作って解決していく物語だ。要領が良くて人生2回目って感じのわかったさんと、何かとトチる人生1回目っぽいこまったさん。
出木杉くん的優等生に憧れていた私は、当然わかったさん推し。

特に魅了されたのは『わかったさんのプリン』だった。ちびギャングのババロワに誘拐された彼女が、魔女の家でプリンを作る話だ。そのプリンはツヤッツヤの卵色に輝いて、私もこれをモノにしたい!と奮い立ちキッチンに立った。慎重にレシピをなぞった。凄まじい集中力だった。

しかし。オーブンのドアを開けると、卵焼きの老人みたいなしわくちゃの塊が、型の中でしぼんでいるだけだった。絶望した。泣いた。私はこまったさんだったのだ……。

それ以来お菓子作りをしなくなったが(マジで)、まさか硬派プリンの大師範・坂田阿希子先生に弟子入りすることになろうとは。坂田さんのきを受けながら作ったプリンは大成功。ありがとう師匠。あの時できなかったこともいつかの未来で回収できるんだ。だとするならば、できる限り長く生きてみるもんだ……とピュアでとびきりのプリンを食べながら思ったのだった。