小さな頃から両親が持っていたレコードを聴いたり、ピアノを習っていたこともあってクラシック音楽は身近な存在でした。自分でレコードを買い始めたのは中学生くらい。
当時は、曲についての情報を得るとしたらレコードのライナーノーツか音楽雑誌か音楽家自身の本くらいしかなかったので、興味を持った作曲家の本は手に取って、自分の中のクラシック音楽の世界を広げていきました。
今は、インターネットで1曲単位で買う人も多いとは思いますが、曲を聴いた印象だけで終わるのではもったいない。文学作品から作曲家の人物像や曲が作られた背景、作曲家が生きた時代の空気を知ると、さらに音楽に深みが増すことでしょう。
『対訳 ペレアスとメリザンド』は多くの作曲家を魅了した戯曲なので、複数の作曲家が書いた曲を聴き比べると面白いのですが、今回はシェーンベルクの名盤を。トーマス・マンは非常に音楽に詳しく、音楽家との深い交流もあった作家。
『道化者』には、19世紀後半のブルジョワ家庭で、憂いを秘めた母親がショパンのノクターンを弾く印象的な場面があります。『仮面の告白』は、『道化者』との対比が面白いので選びました。日本のお稽古事としてのピアノが、戦中の山の手文化の中でどのようなものだったか。『道化者』みたいに感情の機微を表現するために弾くピアノとは全然違っていて、それは現在にまで至っています。
『プロコフィエフ短編集』は作曲家が書いた珍しい小説で、彼の想像力の豊かさを堪能できます。日本滞在記に合わせて、アバドが指揮を振り、アルゲリッチが演奏した名演を。
『サラサーテの盤』は、「ツィゴイネルワイゼン」のレコード盤が登場する小説。現実と幻想の間を行き来する怪談のような味わい。
『ショパン全書簡』は、最新研究で明らかになったショパンという人物を知るのに最も適した史料です。『ラヴェル』と『旅の日のモーツァルト』は、時代をへだてて、どちらも作曲家の人生を描いた小説。物語を通して音楽家の人となりが身近になりますし、社会背景の違いを強く感じます。
本と合わせた楽曲も紹介しています。読みながら聴くと、国や時代を飛び越えて物語の世界に没入できますので、お楽しみください。
『対訳 ペレアスとメリザンド』
モーリス・メーテルランク/著 杉本秀太郎/訳
複数の作曲家から愛された名戯曲
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「ペレアスとメリザンド」/シェーンベルク
『道化者』
トーマス・マン/著 実吉捷郎/訳
ピアノを弾く描写に感情の機微が宿る
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「夜想曲第7番嬰ハ短調作品27−1」/ショパン
『仮面の告白』
三島由紀夫/著
戦時中の日本の家庭で弾かれたピアノ
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「間奏曲」/ブラームス
『プロコフィエフ短編集』
プロコフィエフ/著 サブリナ・エレオノーラ、豊田菜穂子/訳
天は二物を与えた⁉
作曲家が創作した小説
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「ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調作品26」/プロコフィエフ
『サラサーテの盤』
内田百閒/著
現実と非現実の狭間にレコード盤が登場
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「ツィゴイネルワイゼン」/サラサーテ
『ショパン全書簡 1816〜1831年─ポーランド時代』
ゾフィア・ヘルマンほか/編 関口時正、重川真紀ほか/訳
「手紙」に記された作曲家の人生とは
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「ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調作品11」/ショパン
『ラヴェル』
ジャン・エシュノーズ/著 関口涼子/訳
晩年の作曲家が抱えた栄光と苦悩
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「ボレロ」/ラヴェル
『旅の日のモーツァルト』
メーリケ/著 宮下健三/訳
史実に忠実に描かれた作曲家のある一日
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「ドン・ジョヴァンニ」/モーツァルト