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ヒコロヒー「直感的社会論」:先日、宴会をしていた。ただただ私の話をツマミに

お笑い芸人、ヒコロヒーの連載エッセイ第32回。前回の「想像を絶するさまざまに腹が立って仕方がない」も読む。

text: Hiccorohee / illustration: Rina Yoshioka

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先日、宴会をしていた。
ただただ
私の話をツマミに

気がつけばひどく久しぶりに事務所の芸人たちと飲む機会があった。上京してすぐ、友人も知人もおらず荒れ狂い、あらゆるものに最も腹が立ち続けていた20代半ばの頃、とにかく毛布のような愛情と酒量で面倒を見てくれていた兄さん、兄さんと呼ぶにはもう既におじさんだが、兄さんたちや、後輩、後輩と呼ぶにもこちらも既におじさんだが、後輩たちである。

いわゆる「売れる」という経験をできたことのある人生を送れる芸人など気が遠くなるほど一握りである。人生で一度でもさんまさんの前に座ること、ダウンタウンさんに笑ってもらえること、世間の人に顔と名前を覚えていただけること、それらが奇跡みたいなことなのだと、私たちは、よく、知っていた。

かくいう私は、幸運なことにそれを少し経験できたようだった。宝物のような経験であるが、ブレイクタレントランキングなるものに名前を連ねだした4年ほど前の頃はやや壮絶だった。訳もわからず毎日たった一人で戦場のような現場に飛び込まねばならなかった。

仲間は優しいけれど、世間は「新人」というものに関心があるくせに寛容ではないことも知った。2時間おきにくるくる変わる現場で、何かを黙らせるために結果を出し続けなければならなかった。

同じ頃、意地悪を言ってくる人もいた。今思えば単なる嫉妬でしかない言動かもしれないが、衝撃的だった。こんな陰湿なことされなあかんなら売れんほうがよかった、楽しい人たちと楽しくお笑いやれるだけでよかった、と、くだらない弱音を吐いた日もあった。

しかし先日、その会では古くからの人たちが「ヒコロヒーお前やったな!花火あげたな!」と大いに喜んでいた。あの頃ろくに金もないのにずっと酒を飲ませてくれていた人たちが、私の活躍の話をつまみに宴会をしていた。

酔って嬉しそうに「売れてよかった、本当に売れてよかった」とこぼし続けていた。私は、嬉しかった。にも関わらず、シャバいこと言うな、わしもっと売れますわい、と、生意気をしばくのに精一杯であったのだった。

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