Talk

Talk

語る

ハードリカーがある風景:デザイナー・柏崎亮が語るエンダースキーマの革の香りの蒸留酒

強いお酒は本当は優しい。だから特別な日も、なんでもない日も、ぐいっと飲み干したくなる。割ったり、ストレートでそのまま飲んだり、カクテルを楽しんだり。8者8様の暮らしを彩る、ハードリカーがある風景。

Illustration: Hiroki Muraoka / Text: Neo Iida

連載一覧へ

そして牛革は
蒸留酒になった

お酒はそんなに得意じゃなかったし、何ならちゃんと飲めるようになったのも30歳くらい。でも、元ユトレヒトの江口宏志さんが造った〈mitosaya〉の蒸留酒を飲んで、蒸留とは何か、その仕組みがちょっとわかった気がしました。

江口さんとはユトレヒト時代に一緒にワークショップを開催したこともあるし、たまに飲む友達みたいな関係です。だから立ち上げ時のクラウドファンディングでも、12ヵ月間いろんな蒸留酒が届くリターンに申し込みました。

そうしたら柑橘類とか、チョコレート風味とか、今まで飲んだことがない味のお酒が送られてきて。3年ほど前に、とある田舎の田んぼの真ん中に別宅を構えたので、届いた蒸留酒を一式置いてあります。週末に友達一家と出かけて、焚き火をしながら飲むと最高においしいんですよ。

前から何か一緒にやろうと話していたんですが、あるとき工房にお邪魔したら「革でお酒が造りたい」と言われて。〈mitosaya〉の製法で、〈エンダースキーマ〉の革の香りを抽出したお酒を造りたいんだと。

驚きましたけど、ひとまず薬品を使わない、口に入れても大丈夫な特別タンニン鞣し革を作って蒸留してもらったんです。

Hiroki Muraoka イラスト


半信半疑のまま試作品を飲んだら、ほんのり革の香りがしました。過去にはラクダの革にミルクを入れて発酵させた酒もあったというし、おかしな話ではないんですよね。

まだまだ開発中で、これから薬草や果物を入れて風味を整えていくみたいで楽しみです。

〈mitosaya〉は、味はもちろん、既製品っぽくない、実験しながら造るスタンスがいいなと思っています。江口さんが本屋を辞めて蒸留家になったことも、僕としては励みになったというか。一回リセットして、新しいことを始めるって相当タフなことだと思うんです。

僕自身も作りながらやってきたので、自分の舌で一つずつ確かめながら進んでいくところにもシンパシーを感じる。そんな部分も含めて、蒸留酒の魅力を味わっています。

連載一覧へ