「僕の母は古典的なジャズの大ファンで、エラ・フィッツジェラルドやルイ・アームストロング、ナット・キング・コールをよく聴いていた。僕は子供の頃に自宅で流れていたジャズが大好きだったんだ。ジャズが持つ特別な歌と楽器の関係性や、アルバムのジャケットに写ったアーティストたちの、クラッシーかつ美しく着飾った姿にも魅了されたんだ。その後、ジャズの即興性や、幅広い歌詞のテーマにも魅了された。ラブソングからプロテストソングまで様々なテーマを扱っているからね」
幼少期からジャズに触れてきた“ジャズ育ち”の彼はその後、様々なボーカリストを研究しながらその個性的なスタイルを作り上げてきた。
「僕はジャズで感情を表現するボーカリストに昔からずっと魅了されてきたんだ。例えば、レオン・トーマス、ナット・キング・コール、アンディ・ベイ、アル・ジャロウ。彼らのように、感情の筋繊維をストレッチするようなシンガーは僕にとって重要な存在だね。女性ボーカリストならアビー・リンカーン。彼女独自の作曲能力、感情表現など、あらゆる面で独自の個性がある。彼女は桁外れのアーティストだよ」
真っ先に名前が挙がるのがマニア好みのレオン・トーマスなのはボーカルオタクの彼らしい。
「ジャズボーカリストは似たような唱法をなぞるシンガーが多いから、ヨーデル唱法を駆使するレオン・トーマスのような唯一無二のスタイルはレアなんだ。一体どうしたらあんなふうに歌えるのか……僕にはさっぱりわからない(笑)。彼は『The Creator Has A Master Plan』で聴けるようなスピリチュアルな表現方法も素晴らしいよね」
ナット・キング・コールは影響源であり父親のような存在
と、どんなアーティストでもすらすらと解説してしまう。それがナット・キング・コールの話になると一気に言葉が熱を帯びる。ナットはグレゴリーにとっての憧れで、その思いから彼を讃えるアルバム『Nat King Cole & Me』を制作している。
「6、7歳の僕が心を奪われたのは、あの“相手に語りかけるような歌唱法”。父親不在の家庭で育った僕にとって、ナット・キング・コールはまるで自分の父親のような存在だったからね。僕もファンから“自分に話しかけているかのように感じた”と言われることがあるんだけど、それは彼からの影響なのかもね。
それに、彼が感情を表現するために駆使するロングトーンを僕はかなり研究したよ。そうそう、マーヴィン・ゲイも彼に影響を受けていて、僕はマーヴィンとのつながりを感じているんだ」
グレゴリーといえば社会問題に対するメッセージを忍び込ませるポリティカルな側面でも知られている。最後にジャズボーカルと社会問題の関係について聞いてみた。
「ビリー・ホリデイの『Strange Fruit』はディープな曲で、人種問題を示唆してはいるけど、敬意のある、美しい曲に仕上げている。でも“人種差別は絶対あってはいけない”という強いメッセージも確実に含まれているんだ。これこそが、社会問題を扱ったジャズの美しさだと思う。
僕が人種問題を扱うプロテストソングを歌う時にも、リスナーに“昔からずっと人種差別は絶対にあってはならないことだった”というメッセージを奥ゆかしく伝えながら、優雅かつ美しく歌いたいと思ってるよ」