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世界最高峰のボーカリスト、グレゴリー・ポーターが語る、ジャズボーカルの系譜

ローリング・ストーンズやボブ・ディランを手がけた名プロデューサーのドン・ウォズがジャズの名門ブルーノートの社長に就任した際、まず最初に口説いたのがパワフルかつ温かみある歌声で異彩を放っていたグレゴリー・ポーターだった。ドンが惚れ込んだ才能はブルーノートとの契約後、グラミー賞を受賞し、全世界で100万枚を超える売り上げを叩き出し、あっという間にジャズシーンを代表する存在にまで上り詰めた。ここではその世界屈指の歌声に影響を与えたジャズボーカルについて語ってもらった。

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text: Mitsutaka Nagira / special thanks: Blue Note Tokyo

「僕の母は古典的なジャズの大ファンで、エラ・フィッツジェラルドやルイ・アームストロング、ナット・キング・コールをよく聴いていた。僕は子供の頃に自宅で流れていたジャズが大好きだったんだ。ジャズが持つ特別な歌と楽器の関係性や、アルバムのジャケットに写ったアーティストたちの、クラッシーかつ美しく着飾った姿にも魅了されたんだ。その後、ジャズの即興性や、幅広い歌詞のテーマにも魅了された。ラブソングからプロテストソングまで様々なテーマを扱っているからね」

幼少期からジャズに触れてきた“ジャズ育ち”の彼はその後、様々なボーカリストを研究しながらその個性的なスタイルを作り上げてきた。

「僕はジャズで感情を表現するボーカリストに昔からずっと魅了されてきたんだ。例えば、レオン・トーマス、ナット・キング・コール、アンディ・ベイ、アル・ジャロウ。彼らのように、感情の筋繊維をストレッチするようなシンガーは僕にとって重要な存在だね。女性ボーカリストならアビー・リンカーン。彼女独自の作曲能力、感情表現など、あらゆる面で独自の個性がある。彼女は桁外れのアーティストだよ」

真っ先に名前が挙がるのがマニア好みのレオン・トーマスなのはボーカルオタクの彼らしい。

「ジャズボーカリストは似たような唱法をなぞるシンガーが多いから、ヨーデル唱法を駆使するレオン・トーマスのような唯一無二のスタイルはレアなんだ。一体どうしたらあんなふうに歌えるのか……僕にはさっぱりわからない(笑)。彼は『The Creator Has A Master Plan』で聴けるようなスピリチュアルな表現方法も素晴らしいよね」

ナット・キング・コールは影響源であり父親のような存在

と、どんなアーティストでもすらすらと解説してしまう。それがナット・キング・コールの話になると一気に言葉が熱を帯びる。ナットはグレゴリーにとっての憧れで、その思いから彼を讃えるアルバム『Nat King Cole & Me』を制作している。

「6、7歳の僕が心を奪われたのは、あの“相手に語りかけるような歌唱法”。父親不在の家庭で育った僕にとって、ナット・キング・コールはまるで自分の父親のような存在だったからね。僕もファンから“自分に話しかけているかのように感じた”と言われることがあるんだけど、それは彼からの影響なのかもね。

それに、彼が感情を表現するために駆使するロングトーンを僕はかなり研究したよ。そうそう、マーヴィン・ゲイも彼に影響を受けていて、僕はマーヴィンとのつながりを感じているんだ」

グレゴリーといえば社会問題に対するメッセージを忍び込ませるポリティカルな側面でも知られている。最後にジャズボーカルと社会問題の関係について聞いてみた。

「ビリー・ホリデイの『Strange Fruit』はディープな曲で、人種問題を示唆してはいるけど、敬意のある、美しい曲に仕上げている。でも“人種差別は絶対あってはいけない”という強いメッセージも確実に含まれているんだ。これこそが、社会問題を扱ったジャズの美しさだと思う。

僕が人種問題を扱うプロテストソングを歌う時にも、リスナーに“昔からずっと人種差別は絶対にあってはならないことだった”というメッセージを奥ゆかしく伝えながら、優雅かつ美しく歌いたいと思ってるよ」

ボーカリストのグレゴリー・ポーター

過去と現在がクロスするボーカルの名盤

『Nat KIng Cole & Me』
グレゴリー・ポーターが彼の原点でもあるナット・キング・コールをカバーした、トリビュートアルバム。グレゴリーなりの現代的な解釈で歌い上げる「Smile」「L-O-V-E」はじめ、ジャズに詳しくなくとも聴いたことがある歴史的ヒットナンバーを多数収録。