優しいけれど、強い気持ちが表れている
生クリームでもチョコレートクリームでもバタークリームでもない。カスタードクリームとあんこがあればご機嫌な子供でした。母がおもてなし教室を主宰していて、いろんなケーキを焼いてくれたのですが、一番好きだったのもスポンジとカスタードクリームで作るミモザ!大人になり料理を仕事にした今も、カスタードクリームが大好き。いや、好き以上に強い思い入れがあります。
私が好きなのは小麦粉やコーンスターチの使用は最小限に抑え、卵の力でとろりとさせたカスタードクリーム。〈グレース〉のカスタードケーキは、その究極の形です。どんな店のケーキよりも母のケーキが一番大好きな子供でしたが、高校生になった頃、7歳年上の従姉が買ってきてくれたそれを初めて食べて、天にも上る気持ちになった記憶は今も鮮明です。
液体と固体の間で、やっとのことで形を保っているカスタードクリームの軟らかさと滑らかさ。スポンジもまた、しっとりとして口の中で溶けてはかなく消えてしまうほどに軽い。七分立ての生クリームのデコレーションまで、全部がギリギリのバランスで成り立っている“きわどい”ケーキ。包み込むような優しい味ですが、強い気持ちがないと作れない、作り続けられないケーキだと食べるたびに思います。
パティシエのケーキとも、家庭のケーキとも違う。食べて「体が軽くなる」ような気持ちになるケーキは、ほかにはありません。