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料理人・野村友里が語る、〈グレース〉のカスタードケーキのこと

西荻窪〈ティー&ケーキ グレース〉の女性店主が焼くカスタードケーキを「愛してやまない」と話す野村友里さん。家庭的でありながら洗練されているその魅力について語ります。

初出:BRUTUS No.931「なにしろカスタード好きなもので。」(2021年1月15日発売)

photo: Megumi Seki / text: Kei Sasaki

優しいけれど、強い気持ちが表れている

生クリームでもチョコレートクリームでもバタークリームでもない。カスタードクリームとあんこがあればご機嫌な子供でした。母がおもてなし教室を主宰していて、いろんなケーキを焼いてくれたのですが、一番好きだったのもスポンジとカスタードクリームで作るミモザ!大人になり料理を仕事にした今も、カスタードクリームが大好き。いや、好き以上に強い思い入れがあります。

私が好きなのは小麦粉やコーンスターチの使用は最小限に抑え、卵の力でとろりとさせたカスタードクリーム。〈グレース〉のカスタードケーキは、その究極の形です。どんな店のケーキよりも母のケーキが一番大好きな子供でしたが、高校生になった頃、7歳年上の従姉が買ってきてくれたそれを初めて食べて、天にも上る気持ちになった記憶は今も鮮明です。

液体と固体の間で、やっとのことで形を保っているカスタードクリームの軟らかさと滑らかさ。スポンジもまた、しっとりとして口の中で溶けてはかなく消えてしまうほどに軽い。七分立ての生クリームのデコレーションまで、全部がギリギリのバランスで成り立っている“きわどい”ケーキ。包み込むような優しい味ですが、強い気持ちがないと作れない、作り続けられないケーキだと食べるたびに思います。

パティシエのケーキとも、家庭のケーキとも違う。食べて「体が軽くなる」ような気持ちになるケーキは、ほかにはありません。

西荻窪〈Tea&Cake Grace〉カスタードケーキ