多仁本(四谷三丁目)
料亭仕込みのだしが冴える、路地奥の実力店。
お椀とお造り。自らの店を知ってもらうならばこの2品と、〈多仁本〉店主の谷本征治さん。荒木町路地奥の2階、決して好立地とは言えない場所で1年弱、じわじわと人気を得てきた和食店の主は、明快な答えを持つ。
大阪出身、滋賀県の茶懐石の料亭で腕を磨いた仕事は、だしに顕著に表れる。利尻昆布と真昆布の2種を用い、前日からゆっくりと水出し。あえてカツオ節よりも昆布を利かせる味わいは、口当たりが柔らかい分、丸みと甘味が主役となる食材に寄り添う。
お造りは西の魚の代表の鯛を、一番だと感じる明石産にこだわって提供する。定められた和食の歳時のルールより、毎日の築地通いで出会う旬の食材を尊重して使う。ぶれないだしとお造りこそ筋の通った谷本さんの料理の真骨頂だ。
茶の湯が趣味だという世界観は店内にも。無垢のカウンターにワラを混ぜた土壁の端正な造り。小体だからこそ大切な人と、そう思わせてくれる良店だ。