酒井商会(渋谷)
九州食材と郷土の味を、選び抜いた器と酒で。
店主の酒井英彰さん、カウンター越しに器をさっと差し出す所作が美しい。聞けば茶道をたしなんでいるとか。「料理や経営以外にも、学びを広く」とは、独立前に勤めた渋谷〈高太郎〉林高太郎さんの教えだ。
長崎〈雲仙ハム〉のハムを使った分厚いハムカツに、佐賀・呼子の郷土料理、いかしゅうまい。自身が福岡出身ゆえ、つまみのテーマは「九州の味」だ。奇を衒ったものはないのに、どの料理にもきちんと顔がある。
作家ものから骨董まで、器選びのセンスもいい。酒は食事に寄り添うナチュラルワインと純米酒の二本柱。シメは五島うどんのぶっかけ明太かごぼ天肉うどんにするか、それとも季節の土鍋ご飯か。どちらも捨てがたい。
古いビルの2階、看板はナシ。狭くて急な階段を上がると、墨色の壁、古材のカウンターの小空間が開ける。気取りはないのに、清潔で、生活感を感じさせるものがない。「いい店」オーラに食べる前から気分が上がる。