暮らす人:後藤繁雄(編集者)、後藤渚(動画編集者)
流れ着いた湖畔の地で、小屋を建て、植物と向き合う
後藤繁雄さんと妻の渚さんが静岡県・浜名湖畔に家を建てたのは1年ほど前。この地に縁はなかった。
「僕らは2人とも流れ者の人生を送ってきた。だから見知らぬ場所で暮らす方が、心地いい」
スタジオを兼ねる自宅は、約50㎡の小屋と庭から成る。建物は旧知の建築家ユニットdot architectsが設計。6つの石を置き、スギ材を組み合わせた小屋を載せた簡素な造りだ。小ぶりだけれど、窓は大きく、浜名湖を一望できる。
「きれいでしょ。2人でお酒を飲みながら外を眺めるのが最高の娯楽だから、テレビも要らない」
家は永遠の仮住まい。だからこそ充実させる
この場所に辿り着くまでには、転居を何度も繰り返した。
「東京ではずっと原宿界隈で、表参道ヒルズにも12年住んだ。そこを出てからは多拠点。群馬県のある町を気に入って4年くらい倉庫のような場所を借りてみたけど、冬が寒くてマイナス15℃になるので諦めた。京都も学生時代からいろいろなところに住んだけど、一番良かったのが築80年の西陣の町家。でも暑いし寒い。それに坪庭では育てられる植物が限られる」
実は後藤さんは生粋の植物好き。「子供の頃から好きだったけど、経験としては園芸研究家の吉谷桂子・博光と90年代初頭、イギリスの庭園を回ったのが大きい」という。とりわけ影響を受けたのが、「3度も通い、生前の本人にも会った」という映画監督デレク・ジャーマンの〈プロスペクト・コテージ〉。
晩年のデレクが築いた幻想的な庭を思いながら造園計画を立て、バラからハーブまで多様な植物を育てている。「植物は環境を気に入れば花を咲かせるけど、その環境に辿り着けるかは運次第。人の暮らしも同じ。しかも永遠にその場所にいられるわけでもない。ならば生きていることを充実させようと」
夫妻にとって家はあくまで仮の場所。自然の営みを見つめながら、軽やかに暮らしを楽しんでいる。