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〈グッド グッズ イッセイ ミヤケ〉のバッグはなぜ「使いたくなる」のだろう。Vol.2  “手”で考えた網目文様のバッグ「AMIME」とは

使いたくなるバッグには、機能と遊び心と作り手の熱意がある。〈GOOD GOODS ISSEY MIYAKE〉のものづくりに迫る3回シリーズ。第2回で紹介するのは、手仕事と工業を融合させたバッグ「AMIME」。プロダクトが一堂に会する展示も開催中です!

text: Masae Wako

美しい形ってなんだろう?とことん考えて生まれた「いいもの」

柔らかなカゴのような丸みと、凛とした佇まい。口紐をキュッと絞ればコロンと愛らしいフォルムになる。「AMIME」はその名の通り、網目の文様を生かしたバッグ。フレキシブルな構造から生まれる美しさには、〈イッセイ ミヤケ〉らしい「いいもの」の哲学が詰まっている。

〈グッドグッズイッセイミヤケ〉AMIME
「AMIME」
網のフレキシブルな構造をヒントにした、柔らかいカゴのようなバッグ。バッグ小・各44,000円、バッグ中63,800円。カラーはブラック、ブラック×ベージュ、ベージュ。8月1日発売。

〈GOOD GOODS ISSEY MIYAKE〉は、「いいもの」を探求して2018年にスタートした雑貨開発プロジェクトだ。「いいもの」とは、日常の道具として使いやすく、使うたびに気持ちが満たされる存在。いつもの生活にささやかな特別感をもたらすから、今日もまた手に取りたくなる。

そのものづくりの根底にあるのは、「バッグとは、何かを入れて持ち運ぶ道具である」というごくシンプルな考え方。ゆえに制作に携わる企画スタッフたちはまず、袋や箱、カゴ、網といった“持ち運ぶ道具”の形状に立ち返る。そのうえで、〈イッセイ ミヤケ〉らしい美しさや遊び心をどう表現するかに、時間と手間と情熱をかけるのだ。

「“美しい形”ってなんだろうと、ずっと思いをめぐらせていたんです。工芸品や建築物、人体にも植物にも、多くの人の心に響く美しい形というものがある。世の中の様々なものに視点をあてながら、美しい形について考え続けました」と話すのは、「AMIME」の開発を担当した企画スタッフ。

「例えば〈プリーツ プリーズ〉の服はそのままだと平面的ですが、人が着て動くことでちょっとした“たまり”ができて、思わぬ美しさを放ったりする。そういう3次元的な立体の面白さをバッグでも作りたいなあと考えて……そこで、まず編み物を始めたんです。“なぜ編み物?”って唐突に思われるかもしれませんが、とにかく手を動かしてみなくちゃ、と」

「スタートは、身近にあったレザーの紐を、リリアンのかぎ針でざくざくと編んでみるところから。思い描いていたのは“柔らかい壺”みたいなイメージです。どうやったら壺のように丸くて、かつしなやかな形ができるんだろうと悩みながら、自分の“手”を動かして考え続けました」

棒針で編んでみたり、一枚の生地に線状の切り込みを入れて紐を絡めるという方法にトライしたり、と試作を何度も繰り返した。「編み物のほかに、紙を切って繋げたりする紙遊びのようなことも試しました。ただ、手作りのバッグとしては面白いけれど、プロダクトとして成立させるためには、まだ何か足りない。そんな状況が続いたんです」。

「編み目」から「網目」の文様が生まれた

「そうやって半年ほど試作を繰り返していたある日、突然、ぴょん!と飛躍したんです」と同スタッフ。「編まれたものの構造に着目し、編み目を拡大して、うねうねした平面のパーツとして再構築した……って、言葉だと伝わりにくいですね。とにかく、そのパーツを重ねて点で繋ぐと面白いフォルムになることや、口を絞るとコロンとした丸い形になることに気付きました」

ここまで来たら、後は早かった。パーツの形状や素材を整理し、ウェルダー加工という、ビニールの浮き輪などを溶着する技法を用いて制作。パーツひとつひとつを手で繋ぎ合わせ、繋ぎの部分には丈夫なカシメ留めを採用した。「そうしたら、流線形の規則正しい文様が生まれました。最初は“編み物”から始まったのですが、気付いたら“網”の構造になっていたんです」。

頭で考えたのではなく、自分で手を動かしていたらこうなった……と同スタッフは言う。「一本の糸がどういう軌跡を描いてバッグの曲面を生み出すのかを考えながら、編んだりほどいたりしているうちに、少しずつ自分の手に情報が集まってきた。手で考えたからこそ、この形にたどり着いたのかな、という感覚はあります」。身体の動きによって思い描いた形を作る。それは例えば、細い竹ひごを編んで美しいカゴを生み出す竹工芸にも似た工程だ。

だから「AMIME」には、手から生まれた形ならではの柔らかさと、プロダクトがもつ凛々しさが共存する。「工芸と工業の融合は、〈GOOD GOODS〉の企画スタッフの間でも常に話題にのぼるテーマです。クラフトだけでもテクノロジーだけでもなく、両方をどう絡み合わせるかに個性が表れる。そこが面白いのだと思います」。

〈グッドグッズイッセイミヤケ〉「AMIME」バッグの底
バッグの底を覗き込んだところ。網状のパーツが、平面からは作れない3次元的な立体感を生み出している。

こうして完成した「AMIME」の発売は8月から。竹かごのように凛とした雰囲気や、流線形の網目文様が生み出す陰影が、工芸品にも似た空気感を醸し出す。「持ち運ぶという機能をデザインすることは大前提ですが、心に響く佇まいや美しさも機能のひとつだと思うんです。このバッグを持って出かける日は、“気持ちの姿勢”がよくなる。そんな存在になったらいいなと願っています」。

〈グッドグッズイッセイミヤケ〉AMIME
「AMIME」
日本の工芸品を思わせる上品な色使い。口紐の絞り具合で変化する柔らかなフォルムも特徴。
〈グッドグッズイッセイミヤケ〉「AMIME」バッグ大、中、小
バッグ小44,000円、バッグ中63,800円、バッグ大93,500円。カラーはブラック、ブラック×ベージュ、ベージュ。内袋は取り外し可能。
〈グッドグッズイッセイミヤケ〉展示イメージ

ISSEY MIYAKE INC.