1874年、東京で初めて街路樹が植えられたのは銀座通りだった。当時、通りに並んだのは日本を代表する、サクラ、マツ、ヤナギの3種類。だが、サクラとマツはうまく育たず、3年後、水分の多い埋立地にも強いヤナギだけに植え替えられることに。以来、ヤナギは銀座の風物詩として歌に歌われるほど愛されてきた。
しかしこのヤナギにも何度か存続の危機があった。ある時期は全部イチョウに替えられたり、また復活したり、空襲で焼失したり……。そのたびに、「銀座の柳」は人々の強い思いに守られて健在している。
そして今、銀座は通りごとに違うさまざまな街路樹が楽しめる街でもある。築地へと向かう幅の広い晴海通りには、背が高く枝ぶりも大きなケヤキ、銀座通りは三角のイチイ、交通量の多い昭和通りには排ガスにも強いイチョウ、小道には小ぶりのアオギリやハナミズキが、道ごとに違う景観を作り上げる。季節ごとに銀座の街並みを美しく彩る木々を紹介しよう。
A:シダレヤナギ
湿地を好み、水辺によく似合うが、乾燥にも強い。葉が垂れ下がって風に揺れる姿から、日本では幽霊を連想させる木に。4月頃、黄色い花をつける。現在は中央区の木に指定。
B:サクラ
銀座は隠れたサクラの名所。高架沿いの約220mに、ソメイヨシノのほか一般に八重桜と呼ばれるサトザクラが約50本、一斉に花を咲かせる。花は濃いピンク色で開花は遅め。
C:マロニエ
フランス語でマロニエと呼ばれ、パリの街路樹としても知られるセイヨウトチノキ。5枚の小葉からなり、葉は銀座一の大きさ。春に白い花が咲き、石鹸分を含む実をつける。
D:ハナミズキ
一青窈の歌で一躍有名に。歌詞にある通り、4月下旬~5月上旬に薄紅色の花を咲かせる。秋には葉も赤く染まり、赤い実がなる。花言葉は「私の思いを受けてください」。
E:ケヤキ
表参道でも街路樹になっている。寿命の長い木なので20mを超える巨木となり、天然記念物に指定されることも。晴海通りにもかなり大きな木が。高級な建築用材の一面もある。
F:コブシ
3~4月、一足早く春を告げる白い花が咲く。花の脇に必ず葉が1枚つくのが識別ポイント。秋に握りこぶしを思わせる赤いゴツゴツした実がつく。これがカラスの大好物。
G:トウカエデ
秋に真っ赤に染まる葉が美しく、大気汚染にも強いので、街路樹としてよく植えられる。春には小さな淡黄色の花が咲くが目立たず。ガサガサめくれ上がっている樹皮も特徴的。
H:シナノキ
日本の山地に分布。「信濃」の名前の由来ともされる。初夏に香りの良い小さな黄色の花が咲き、良質のハチミツがとれる。近種のセイヨウシナノキは菩提樹として有名。
I:イチイ
クリスマスツリーにも使われる三角の木。赤い実の皮はゼリーのように甘くて、果実酒の材料にもなるが、中から覗く種子は有毒。春に小さな花が咲き、初秋に実をつける。
J:アオギリ
沖縄や東南アジアなど、暖かい地の植物。若い木の幹や枝が青く、名前のアオの由来に。昔は、シワシワの実を炒っておつまみにして食べたり、コーヒーの代わりにしたりした。
K:イチョウ
明治神宮外苑や御堂筋にも並木があり、日本で一番多く街路樹として使われている木。身近な植物だが、実は野生絶滅種で、原始的な裸子植物である。種子はご存じギンナン。
L:エンジュ
中国原産のマメ科の植物。夜になると葉を二つ折りに閉じる。夏にクリーム色の小さな花をたくさんつけ、道に落とす。漢方では乾燥させたつぼみを止血薬としても利用する。
M:ユリノキ
アメリカ産で英名はチューリップツリー。5~6月に直径5~6㎝のチューリップに似た黄緑色の花が咲く。葉の形は独特で、薄く硬い。生長が早く街路樹としてよく選ばれる。