映画人・小津安二郎生誕の地、深川エリア
『東京物語』や『浮草』など、生涯を通して54本の作品を監督し(現存は37本と言われている)、ヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュをはじめ、世界的な映画監督にも影響を与えた映画監督・小津安二郎。
ゆかりの地は、三重県松阪、神奈川県鎌倉、長野県蓼科などが挙げられるが、江東区深川一丁目、清澄公園の近くの道端には「誕生の地」の看板が立つ。小津作品の下町情緒が垣間見られる深川地区。ここで生まれ育ち、映画人としてのキャリアを育んだのだ。
門前仲町の駅から歩くこと10分ほど、賑やかな商店街を南に抜け、大横川を渡り住宅街に入ってしばらく歩くと、古石場川親水公園の遊歩道が東西に延びる古石場(ふるいしば)地区に入る。隣は木場や越中島に接するエリアだ。
小津の貴重な資料が今も見られる
公園を東に歩いていると「小津橋」に差し掛かる。その目の前にあるひときわ高い都民住宅の下に、「古石場文化センター」はある。ここに常設展示されているのは、深川で生まれ育った映画監督・小津安二郎の貴重な資料の数々だ。
まず、展示室に入って目に入るのは小津安二郎の生涯が分かる、詳細な年表。その下のガラスケースには、幼少の頃から上手だったという、本人が描いた絵や習字、作文が複数展示されている。幼い頃の作品からも、モチーフの観察力や色遣いに、映画と共通する何かを感じるかもしれない。これらも、他ではなかなか見られない貴重な資料だ。
本人が実際に使用していた私物の数々が気になる
世界的に有名になった小津安二郎が、実際にどんなものを使っていたのか。どんなものを着ていたのか。実物や写真資料から知ることができる。本人が使っていた鉛筆や財布を見れば、物へのこだわりが見て取れるし、急に身近な存在に感じられるから不思議だ。
「ついたてが歩いているような人」と揶揄されたというだけあって、展示されている洋服を見ると、その大きさに驚く。さらに大きな志賀直哉と並んで歩く写真なども貼ってあり、いろんな発見が楽しい。
映画に関する資料もたっぷり
映画的な資料も多数所蔵している。たとえば、『秋日和』(1960年公開)をはじめとした映画の脚本や、シナリオに赤入れするための赤鉛筆。当時使われていた機材と同型のムービーカメラ、公開当時の映画ポスターや、映画内で使われた湯呑みなどが展示されている。
もちろん、深川エリアで撮影された作品の解説や、「小津安二郎と深川」という8分間の映像など、この地域を知ることができる、ならではのコンテンツも充実している。
この施設では定期的に小津作品の上映会を開催。小津安二郎にまつわる書籍や、ここでしか買えないオリジナルグッズも販売している。オリジナルのイラスト地図「古石場文化センター周辺マップ」の無料配布などもあるので、そぞろ歩きしながら街を散策するのもおすすめだ。