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「おいしい、温泉。」編集後記:地獄のロードは、天国でした

2023年12月1日発売 No.998「おいしい、温泉。」を担当した編集者がしたためる編集後記。

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地獄のロードは、天国でした

たくさんの温泉地を巡った今号の取材。10月半ばに始まり、夜家に帰って翌朝別の温泉の街に、という夏の阪神バリの旅程が続きました。

最初の取材先は、大分県の別府。地獄めぐり発祥の地です。最初に取材したリスニングバー〈Tannel〉を営む深川謙蔵さんが開いた1軒目のお店はその名も〈the HELL〉。また、別府の街にナチュラルワインを持ち込んだ先駆者、楢本司さんのお店は〈Enfer(仏語で地獄の意)〉。外湯めぐりだけでなく、酒場ホッピングは、”夜の地獄巡り”となりました。

その後も、長崎・雲仙の清七地獄、小地獄温泉館、長野の地獄谷野猿公苑などなど。温泉街に行くたびに地獄に遭遇。日本中、地獄だらけだったことに気がつきました。私が巡っていたのは、“死のロード”ならぬ、“地獄のロード”だったんです。なんか、デスメタルっぽいですが、このロード、巡れば巡るほど体がポカポカしてリラックスするし、温泉街の酒場はお酒も料理もおいしいし、全然地獄じゃなくて、むしろ天国。

文筆家の井川直子さんは、今回の特集で、別府の町について、サンセバスチャンになぞらえた文章を寄せてくださいました。サンセバスチャン未踏の私にとって別府は、ゴールデン街のように新旧の店がところ狭しと入り混じり、いい飲み屋街に“ジモ泉”が点在する、世界でも唯一無二の街。

兵庫県城崎の街の真ん中を流れる小川の脇で、浴衣を着た諸外国のカップルが肩を寄せ合って自撮りする風景もまた、ヴェニスのようでありつつ、唯一無二。長野県の渋温泉も、密集する木造建築にそぞろ歩く、浴衣姿の観光客たちがまた、唯一無二の景色を生み出している。

温泉街での酒場ホッピングは、地元の人との裸の付き合いも、観光客同士の酒場での交流も、隣に座れば仲良くなれる、日本が世界に誇れる唯一無二の体験、と実感した取材でした。特集が出て、仕事はひと段落しましたが、次の休みもおいしい温泉街求めて、遠出する予定。天国みたいな地獄のロード巡りは、しばらくやめられそうにありません。

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