洋食は、世界遺産級の食文化です
和食がユネスコ無形文化遺産になって約10年。「洋食」も、いまや守り、伝えていくべき日本固有の食文化だと思います。明治時代、開国とともに入ってきた西洋料理に憧れと戸惑いを抱いた食べ手の気持ちに寄り添うように、当時の料理人たちが「ご飯に合う西洋料理」を試行錯誤の中で生み出した、それが洋食です。
さて、洋食はいくつになっても子供の頃の思い出が蘇る、心ときめく料理のジャンルですが、町の洋食屋さん、喫茶店、食堂などのおかげもあって、オムライス、ハンバーグ、ナポリタンなどは、日常的に食べることができます。が、取材してみると洋食に欠かせない、ソースづくりには、想像を絶する手間と時間がかけられていることがわかりました。デミグラスソースは牛骨を焼くところから、3ヶ月かけるレストランもある。ベシャメルソースづくりでは膝の屈伸をしながら粉を炒め、非常な体力を要します。丁寧な仕事が、細やかな日本ならでは、の美意識を通してお皿やお店に表現されています。
しかし、効率や、後継者問題、料理人のイタリアンやフレンチへの専門化などの理由から、洋食屋さんは減る一方となってしまった現状があります。(実際に、取材をさせていただきたかったけれど残念ながら、昨年末で閉店してしまったお店もありました。)
その一方で、昨今では、日本旅行経験者や、世界的に配信されるアニメやドラマのおかげで、オムライスやナポリタンを食べてみたいという需要が増え、海外にも専門店もちらほらとできている。本誌では、台北とニューヨークのお店を紹介しています。
洋食は、日本が世界に誇れる食文化。本誌では、その食文化を伝える洋食店が多数掲載されているので、ぜひページをめくって、その物語に触れてみてください。また、本誌では、92軒のお店に言及していますが、ぜひみなさんのお近くのお店に洋食を食べに行き、心も体も温もっていただければ、と思います。