2015年1月、BRUTUS「ロンドンで見る、買う、食べる、101のこと」取材班は、ロンドンで、衝撃の出会いを果たしました。有名ベーカー、ジャスティン・ジェラトリーの作った、カスタードクリームのドーナツです。そのドーナツはふわふわでカスタードクリームが詰まっていて、一口で昇天するおいしさでした。ジャスティンは、レストラン〈St. JOHN〉の元ヘッドベーカーでウィリアム&ケイト英国皇太子夫妻のウェディングパーティでパンを焼いた伝説のパン職人。当時は〈Bread Ahead〉というベーカリー&ベーキング教室をやっていました。私たちが取材をしたのは、その大人気のドーナツ教室でした。
それ以降も、あのクリームドーナツ食べたい、と思うことがしばしば。そして、ついに発見したんです。日本で食べられるお店を。今号の巻頭を飾るのは、そのジャスティンの元で修業をし、2019年から京都でカフェ〈Kew〉を営む大木健太さんのドーナツです。ロンドンまで行かずとも、あのドーナツに会える、という嬉しさで、取材チーム、勇んで出かけました。大木さんのドーナツについて、詳しくは、ぜひ本誌の記事をご覧ください。
さて、大木さんは、営業日には朝4時からドーナツの仕込みをするということで、私たちもお店に伺ったのは4時半ごろ。その後、そのほかにも、ドーナツの仕込みを取材しましたが、どこも朝早いお店が多く。まずはその事実が、今号の取材で最も驚いたことかもしれません。
ドーナツは、一般的におやつの1アイテム、ファッションフードのように語られることも多い食品ですが、材料にこだわって、丁寧に作っている人のなんと多いことか。ひとかたならぬ手間暇がかけられていることに、今回、改めて感服しました。その一方で、ストイックすぎず、食べる方も、それほど神経を尖らせて挑まなくてもよい。ドーナツのお店では、営む人たちも、食べに来る人も、みんなニコニコしていて、ドーナツショップはいつも明るく、ポジティブな空気に満ちている。
ドーナツの一冊を作ってみて、特集全体が、キラキラと、カラフルで、幸せな空気に満ちていることがなにより嬉しく思われました。ぜひ、お手に取っていただき、ページをめくって、そんな柔らかでおいしい世界に浸っていただければと思います。