皆さんには、思い出のあんこ菓子、思い入れのあるあんこ菓子はありますか?中高生時代、学校帰りに四ツ谷の〈たいやき わかば〉で冬にはたいやきを、夏には抹茶金時のかき氷をおやつに食べるのが、たまの贅沢でした。今でも、仕事で四ツ谷付近に行くと、寄って差し入れを買ったりする、日常的マイ・ソウルあんこです。(酒井順子さんの「推しあんこ手みやげ」の一つとして本誌でも紹介されています。)
また、季節のあんこ菓子にも、特別なものがありました。名古屋で暮らす祖父が好きだった錦の〈亀末廣〉の「うすらひ(薄ら氷)」がまさにそれ。毎年冬になると、買いに行ったり、送ってもらったり。長方形の桐箱の中が真っ白な流氷の景色で満たされた、詩的で壮大なお菓子でした。数年前に閉店したと聞いてとても残念に思い、どこかに似たお菓子はないかと探したり、聞いたりしていたものです。
最近になって〈亀末廣〉で修業された方が〈亀広良〉というお店でそのお菓子を作っていらっしゃると教えてもらい、早速取り寄せました。どっしりとした黒糖あんが懐かしく、大げさでなく、感涙。今回取材で伺うと、若く頼もしい息子さんがお菓子を作ってくださり「私が生きている間はこの味に会えるのだな」と安堵しました。
新しいお菓子のブームが、毎年のように生まれては消え、”映え”るものが取りざたされがちな昨今。ご多分に漏れず、あんこ業界の後継者問題も深刻と聞きます。あんこのお菓子は一見地味に映るかもしれませんが、実直・丁寧に作られ、継承されてきたお菓子には、それぞれの歴史やお店、家族の物語があり、軸があるなぁ、と感じます。ぜひ、それぞれのお店のあんこ菓子ストーリーを読んで、いろんなあんこを召し上がっていただければと思います。
草野裕紀子(本誌担当編集)