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「百読本」特集 編集後記:自分をかたどる百読本。拠り所にできるような一冊はありますか?

2021年12月15日発売 No.953「百読本」を担当した編集者がしたためる編集後記。

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仕事柄、本はたくさん読みます。企画を立てるための資料だったり、取材相手の著書だったり。
ただ、正直、仕事のために読むものは、限られた時間の中での斜め読みのような形で、内容を大まかに把握するような読み方にならざるをえないこともあります。
じっくり読書ができていない……という自分のフラストレーションもあったうえでの、今回の「百読本(何度でも読む本)」特集です。

読書家の方々にそれぞれの百読本の話を伺っていると、本についての話を聞いているはずなのに、その人の生き方や考え方を聞くインタビューのようにスライドしていくことが多々ありました。
それだけ何度も読んだ本というのは濃度の高い影響を与えて、その人自身をかたどるものになっているのだなと気づいた次第。
そして、行き詰まった時や自分に立ち返る必要があるような時に、拠り所になる本があるっていうのは結構助けになることなのだと改めて思ったのでした。

年末年始、もし少し時間がとれるなら、新しい本に手を伸ばすのではなく、自分の本棚から昔読んだ本を引っ張り出してみるのも面白いかもしれません。

ついでに(?)、私も引っ張り出してみた3冊を紹介しておきます。

『時間のかかる読書』宮沢章夫/著
『時間のかかる読書』宮沢章夫/著

横光利一の短編『機械』を脱線、飛躍、停滞しまくりながら11年かけて読むという究極の“読書遊び”。でもじつは読書って、本来こうであっていいのかも?なんてことを思ったりも。こののろのろ読書本をダラダラと読む(こちらはただの遅読ですが)という贅沢。今回の特集をするにあたっても、久しぶりに読みました。

『京都人だけが食べている』入江敦彦/著
『京都人だけが食べている』入江敦彦/著

自分があまり得意でないという自覚もあって、“美味しい”文章を書ける人はもう単純にリスペクト。入江さんの文章はドラマチックに盛るわけではないのに、食の魅力と情報を余すことなくきちんと伝える、自分にとっての理想みたいな存在。ときどきページを開いては、甲子園常連高にコールド負けする球児のようにすがすがしく打ちのめされています。

『なんらかの事情』岸本佐知子/著
『なんらかの事情』岸本佐知子/著

疲れているとき、笑いがほしいときの処方箋は岸本さんのエッセイにしています。本業翻訳家ですが、エッセイが大好き。日常の出来事にシニカルとユーモアとファンタジーが小気味良く織り交ぜられ、自分の退屈な暮らしすらも愛せそうな勘違いをさせてくれます。今回特集に登場していただけたのも嬉しかったです。

中西剛(本誌担当編集)

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