納涼と快楽
文芸ブルータス。小説や詩歌の紹介記事ではなく、文芸作品をそのまま誌面に載せてしまえ、なぜなら、紹介記事だと読んだ気になってしまい、案外実際に読むところまで至らないのでは、それならいっそ(以下ループ)——という、なかば強引な仮説と断定にもとづいて作られたこの文芸特別号は、実は今回、2度目となる。
1冊目の「文芸ブルータス」は2012年に刊行され、そのときは「(ブルータスが作る)一度きりの文芸誌」と謳われていた。

「一度きり」の約束を覆してまで刊行したのが、本号「文芸ブルータス 2025夏」である。
13年ぶり2冊目となる今回の文芸ブルータスでは、日本の気鋭作家たちが書き下ろした短編から海外作家の傑作長編の冒頭抄録まで、16の作品が掲載されている。
国内の掲載作家は、『群像』『新潮』『文學界』『文藝』の各編集長との協議のうえ決めた。急ピッチな進行にもかかわらず、常に前向きな提案と意見交換が続き、気づけば、目次には錚々たる顔ぶれが並んでいた。
1冊目の「文芸ブルータス」との違いでいえば、海外作家の小説が載っているのも本号の特徴だ。
2024年にノーベル賞文学賞を受賞したハン・ガンによる初期の重要な短編「白い花」、現代ロシア文学の“モンスター”と称されるウラジーミル・ソローキンの集大成「ドクトル・ガーリン」(抄録)、コンゴ共和国出身の作家アラン・マバンクの代表作で英ガーディアン紙が選ぶ「21世紀の100冊」にも選出された「割れたグラス」(抄録)などなど、全7作。
小説だけではない。文芸誌を標榜する「文芸ブルータス」には、短歌もあれば、対談やインタビュー、広告を模したコラムや作家紹介まで、種々のスタイルの文芸が詰め込まれている。気づけば、特集のページ数は100をゆうに超えていた。
欧米にはサマー・リーディングという文化がある。夏こそ読書をしよう、というやつだ。
避暑地のハンモックに揺られながら、あるいは砂浜に立てたパラソルの陰で、はたまたクーラーが効いた自室でアイスを齧りながら——読まれることを想像して、この文芸ブルータスは作られた。
この1冊が世界のどこかで涼んでいるあなたに、至上の快楽をもたらさんことを。
