ある編集者が、クルマを買うまでの話 Part1
二つの誘惑が重なると衝動買いをしてしまう、ということに最近ようやく気づいた。
例えば本なら、本読みのライターさん、そして、信頼している書店、この二つが同じ本をおすすめしていると、財布の紐が緩むどころか、ブチブチと千切れてしまう。
クルマ特集を作る過程で、2つの大きな誘惑に襲われた。
まずは、編集部の先輩の話。その先輩は最近2ドアのスポーツカーを買った。なぜそのクルマにしたのか理由を尋ねると、そのクルマは父親が昔乗っていて、子どもがいない今、コンパクトなスポーツカータイプがちょうどいいのだと答えてくれた。
星の数ほどあるクルマのなかから、自分だけのストーリーがある一台を選ぶとなると、親が乗っていたクルマというのはなんとも魅力的な理由だった。そして、今しか乗れないクルマというのもいい。タイミングを逃せば、コンパクトなスポーツカーなんて一生乗ることはないかもしれない。
とりあえず親に連絡して、愛車遍歴を尋ねてみる。すると、父親も自分の姉が生まれる前まで、トヨタの「MR2」に乗っていたことがわかった。なんともいなたくて、渋いクルマだ。欲しい、と思った。コンパクトなスポーツカーへの羨望はますます膨らんだ。
そして、二つ目の出来事。近所の空き地に手書きで「空き駐車場あります」と書かれた紙が貼ってあった。その横には携帯番号まで書いてある。雨除けで被せているビニールのサイズも少し緩く、湿気が入り込んで文字は滲んでいる。そのアナログで、少し不器用なスタイルに妙に書き手への信頼感を感じてしまった。
そして何より交渉次第で安くできるのではないかなんて邪な気持ちだってもちろんある。何も恥ずかしいことはない。家の周りには駐車場は少ないし、家から徒歩30秒ほどしかかからない駐車場なんて他にない。ありだな、と思った。
ありだなーと思っていたら校了してしまった。特集が始まる前、編集長に特集を作り終えるまでにクルマを買って、編集後記に書きます、などと軽口を叩いてしまった。しかし、まだ買っていない。けれど、かなりクルマ欲しくなっています。(もし買ったら、Part2を書きます。)
そして、特集にはそんな自分みたいな人に向けて「クルマが欲しくなったらひらくページ」というBook in Bookを作った。かなり実用的なガイドブックになっているので是非開いてみて欲しい。