私たちは、日本化された中華しか知らない。
中華料理に長らく携わってきた私でさえも、まだまだ知らない食材があるんだなと痛感したドキュメンタリーが『美味の起源』です。最近の日本では「現地系」と呼ばれる中華料理のお店が出てきました。日本ではあまり知られていない、でも中国各地で日常的に食されているような料理を出す店です。
『美味の起源』では、その「現地」のさらに奥にあるような料理が出てきます。例えば、個人的にツボだったのが潮州料理の「腐乳餅」。発酵させた豆腐を焼いたお菓子です。中華食材の卸という家業柄、「腐乳」は子供の頃から食べていて大好きな調味料なんですが、「腐乳餅」は食べたことがなくて。今、真っ先に食べたいのはこのお菓子です。
映像の美しさもこの作品の魅力ですね。数年前から中国では、農家の敷地内にあるレストランでご飯を食べる「農家楽」という旅が流行っていて。農家の人が、そこらへんから採ってきた食材を目の前でぱぱっと料理してくれるんですよ。
僕はコロナ禍の前、雲南省に行った時に体験したのですが、「こんな中国もあるんだな」としみじみ思いました。『美味の起源』に出てくるのはまさにそのような食の風景です。思いを馳せつつ、知らない食材に興味をそそられながら観ています。
『美味の起源』ここがおいしい!
「きっと、満腹の時に観たってよだれが出ちゃう。」
シズル感あり、旅情あり、さらには「タンパク質とアミノ酸が放出され旨味が保たれる」といった科学的な根拠を述べながら美味の起源を明かす絶妙なストーリーテリングに引き込まれること間違いなし。