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写真家・星野藍、旧ソ連が舞台のドキュメンタリー『クナシリ』『チェルノブイリ・ハート』をくらべてみたら

ソ連とはロシアをはじめとする15の国々で構成された社会主義共和国連邦のこと。1991年に崩壊したが、旧構成国にはいまもその影響が残る。『旧共産遺産』などの著書で知られる写真家の星野藍が、旧ソ連の「忘れられた」場所に生きる人々の映像を見比べた。

Text: Izumi Karashima

見捨てられ忘れられた場所に生きる人々の絶望。
国後島とチェルノブイリ。

ああ、極東ロシアの風景だなあって。『クナシリ』を観たときそう感じました。ロシアって、モスクワやサンクトペテルブルクなどの都市以外、ああいう雰囲気が多い感じがします。閑散とした荒涼とした風景がただただ広がって。
国後は、北海道から16㎞の位置にあるけれど、ロシアが実効支配しているから私たち日本人は足を踏み入れることができない島。

ドキュメンタリー『クナシリ』
戦争遺産と一緒に取り残された国後島。

映画を観ると、かつて日本人がそこで暮らしていた痕跡はまだあって。お寺の石垣や茶碗のかけら、朽ち果てた船や砲台、放置されたままのお墓。ロシア人は日本の面影の上に暮らしているけれど、整備が行き届かず、ゴミは散らかり放題、トイレもなかったり。

結局、領土問題のためだけに存在する忘れ去られた島だなって。ロシアの貧しい場所は、平均賃金も非常に低く、遠くに行きたくても移動するためのお金もなく、ここで暮らすほかない、という人々が多いんです。しかも国後の場合、島だから逃げ場がない。あの人たちはあそこから一生出られないんだと思うと絶望しかないなって。

旧ソ連は、いままで11ヵ国行きました。もともと軍艦島や松尾鉱山といった廃墟が好きで、ロシア構成主義の建築やモニュメントなど旧ソ連の「遺産」に惹かれたんです。哀愁と、やるせない思いと、消えゆく不安定さと。

知られざる場所に住む人々の生活と思いを知る。

最初に行ったのはウクライナでした。チェルノブイリが目的で。2013年、3・11東日本大震災の2年後に行ったんです。私は福島市出身。自分の故郷がチェルノブイリみたいになるのではないかという恐怖心を覚えたのがキッカケです。

しかも、それまで廃墟に退廃美を感じていたのに、それが一挙に現実になってしまった。途端、廃墟との付き合い方もわからなくなって。だったら、チェルノブイリに実際に行ってこの目で見てみようと。

実際、チェルノブイリに行くと、立ち入り禁止区域に人が住んでいるんです。生まれてからずっとここなのに出ていきたくない、どこへ行けばいいんだと。それは、私を含め、福島の人々もまったく一緒だなって。

元には戻らないけど禁止区域に住み続ける人々。

『チェルノブイリ・ハート』は、事故から16年後のチェルノブイリを欧米の女性ジャーナリストが訪れ放射能が子供たちにどんな影響を及ぼしているのか、その実態を取材したものです。

ただ、チェルノブイリの人々に寄り添うというより、取材者の偽善を押しつけていると感じたのが率直なところ。障害のある子供がたくさん生まれている事実はショックでしたが。

ドキュメンタリー『チェルノブイリ・ハート』
障害のある子供が増えたチェルノブイリ。

今現在のチェルノブイリはどうかというと、ドラマの影響(NBO制作『チェルノブイリ』)もあるのか、ある種「観光地」となっているようで、観光客が押し寄せているそうなんです。あるいは、ダークツーリズム的に興味を持つ人々も増えてきていて。

ただ、珍しい場所にいる自分すごい!という物見遊山的な人だったり、残留物を勝手に持ち帰る人もいるらしいのです。でも、30㎞圏内の立ち入り禁止は相変わらず続いているし、不法滞在も続いている。元になんか戻っていないし、戻れないし戻せないし戻らないんです。結局、チェルノブイリは見捨てられたんです。国後と同じように。

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