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環境+リノベーションの実験住宅。すべて自分で改修・改装設計した、もの作りのプロの暮らし

〈スタンダードトレード〉代表・渡邊謙一郎さん。自らの力で表現をしてきた彼らは、住まいとどう向き合っているのか。創作の拠点であり、もう一つの作品でもある、もの作りのプロの居住空間学。

Photo: Taro Hirano / Text: Tami Okano

素材本来が持っている力を活かす
内装への試み

堅く耐久性の高いナラ材を使ったオリジナルの家具を製作し、店舗や住宅の内装も手がける〈スタンダードトレード〉の渡邊謙一郎さん。

家具の仕事を始めてから15年ほどになるが、その間の引っ越しはこれで4度目。すべて自分で改修・改装設計をしてきたという。平均すると約4年に1度。わざわざリノベーションしたのに?

「そのときどきで住まいに対して試してみたいことがあり、自宅は常に実験場。最初は見た目がよければいいと安普請の改装もしたけれど、家具作りや空間作りの経験が増えるたびに、もっと質を上げたい、新しいことをやってみたいと思うようになる。

お客さんに提案をする側なのに自分の家がいい加減だっていうのは嘘だとも思うんです。この家で挑戦したかったのは、緑のある環境をより楽しめるようにすること、そして素材本来が持っている力を試してみることの2つです」

横浜は根岸の高台で、目の前は18万平米という広大な公園。建物は米軍基地に近いという土地柄もあり外国人向けに建てられた庭付きのテラスハウスで、築30年だが耐震証明が取れるほどしっかりした作りだった。

まずは立地に惚れ込み、数ヵ月かけて交渉、念願かなって手に入れてからは、公園と庭に向かって抜ける視線を基本にプランを練った。玄関と勝手口を土間でつなぎ、1階の間仕切りの壁を取り払ったのもそのためだ。壁の色は公園側が濃紺で庭側がライトブラウン。どちらの色も窓からの緑がよく映える。

素材への試みは徹底していて、木の部分は〈スタンダードトレード〉の家具同様、すべてナラ材。床は無垢材でしかも無塗装。

「どのくらい汚れるのか、自浄力や経年変化を見てみたかった」と渡邊さん。ヘリンボーン敷きの繊細さに目を奪われるのだが、同じ床を見て、「2年経って汚れがちょうど目立つ頃で……」と説明は常に実験モードだ。

リビングのコーナーの壁も素地仕上げで季節によって伸び縮みするが、呼吸する木の気持ち良さはすぐそばで眠る0歳の長男の寝息が証明している。ほかにも寝室のベッドのヘッドボード周りを空気の清浄や調湿に優れた珪藻土で仕上げるなど「とにかく環境優先」。それでも見た目は写真の通り、美しい。

ちなみに、この家がすっきりしているのは撮影だから片づけたわけではなく、渡邊家はそもそも夫婦揃って「断捨離」思考。インテリアに関わる人には珍しく、ものには興味がないという。

1つ前の家は39平米、モルタルの床に大きなキッチンだけがあるような超ミニマルな部屋だったというから、ものの少なさは推して知るべし。この家に合わせて作ったキャビネットの中も、実はスカスカなんだとか。

ダイニングテーブルの長さは3m。これほどゆとりがあっても何かが置きっぱなしになるなんてことはなし。持ち物の量は今後も増える気はしないという。

神奈川 3階建テラスハウス 階段
外国人向けに作られた3階建てのテラスハウスで、天井高をはじめ階段部分もゆとりのある作りになっている。階段には滑りにくく素足でも気持ちいいサイザル麻を敷いた。