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「シンドラーならどうする?」名作住宅に暮らしながら“保存”する。ルドルフ・ミヒャエル・シンドラー設計〈レクナーハウス〉に暮らす

1947年に建てられたシンドラー・ハウスに暮らす、デザイン事務所コミューンの創立メンバーでもあったパメラ・シャムシリ。人手に渡り、変わり果てた家を8年もの歳月をかけて元に戻すだけではなく、独自の暮らし良さもちゃんと追求した家を作り上げた。

Photo: Ye Rin Mok / Text: Aya Muto / Edit: Kazumi Yamamoto

木々に囲まれた峡谷を望む
家族のオアシス

「デザインに携わる人間として、名作住宅に暮らしながら“保存”することに興味があったんです」。

パメラ・シャムシリがこのR・M・シンドラー物件(レクナーハウス)と出会ったのは2008年のこと。
シンドラーは、フランク・ロイド・ライトに師事し、その後インターナショナル・スタイルという独自のモダニズム建築の流れを作り出したロサンゼルス近代建築の祖である。彫刻的な空間使いの妙で“建築家が憧れる建築家”としても知られている。

購入してから最初の頃は、「シンドラーならどうする?」といつも問いかけながらの修繕作業だったため、すぐそこにシンドラーの存在を感じながらの暮らしだった。

R・M・シンドラー設計〈レクターハウス〉キッチン
キッチンは時代とともに変わって当然、と全面改装した。シンドラーのダイニングテーブルにポール・ヘニングセンの照明が映える。

「大理石やドライウォールが元の内装に糊付けされたひどい状態だったんです。オリジナルの合板を救出する作業はちょっとした採掘でした」とパメラは笑う。

UCサンタバーバラにあるアーカイブをはじめ、ドローイングや美術館所蔵の家具まで、実際自分の目で見られるこの家の資料はすべて見に行ったという。そして、造り付けの家具にこだわったシンドラーへの敬意も込めて、極力オリジナル家具を再生させた。

しかし、この偉大な建築を尊重しつつも、自分たちの住処にしていく必要がある。そのプロセスは迷いの連続でもあった。

「友人と料理をしながら時間を過ごすのが好きなので、キッチンカウンターは2倍以上の長さに変更したり、また閉塞感のある空間が苦手なので、何枚も扉を外したり」もした。

シンドラーの配慮あるニュアンスを守りつつも、徐々に好きな家具を入れるなどして空間のバランスを見出していったという。

「育ち盛りの息子2人は家の中でスケートボードに乗るし、犬も駆け回ります。家を貴重品扱いしすぎないのも大事な心得なんです」と彼女は説く。

「ロサンゼルスでの重要建造物といえば多くが住宅です。暮らしていく人の嗜好を取り入れることで長期的にはその建築物を守ることに繋がる、と今では確信しています」。

R・M・シンドラー設計〈レクターハウス〉.プールjpg
1947年に建てられたシンドラーハウスに暮らす、デザイン事務所コミューンの創立メンバーでもあったパメラ・シャムシリ。人手に渡り、変わり果てた家を8年もの歳月をかけて元に戻すだけではなく、独自の暮らし良さもちゃんと追求した家をつくり上げた。次のプロジェクト、というプールはレザ(左)とバーゼル(右)の格好の遊び場。緑の峡谷風景を抱くように佇む建物は、アメリカ南西部の穴居に着想を得た、ともいわれている。