さりげない佇まいの内側に、心豊かな暮らしを包み込む。
扉をくぐり、緑あふれるアトリウムを抜けて2つ目のドアを開けると、思いもよらず光いっぱいの伸びやかな空間が広がっていた。ハイウェイも程近い交通至便なロケーションとは信じがたい、調和のとれた静寂にほっと包まれる。
アキさんと夫トロイさんはこのアイクラー・ホーム(以下アイクラー)を「私たちのハイドアウト(隠れ家)」と呼ぶ。もともとSF市内に住んでいた夫妻、シリコンバレーへ通勤するアキさんの負担を軽くしようと物件を探す中、サンマテオで出会ったのがアイクラー。「それまでまったく知りませんでした」と2人は笑う。しかし調べるうちに惹かれていく。
リーズナブルな住まいをあらゆる大衆に届ける、というアイクラー氏の進歩的な理念。外に向けて大きな窓を造る従来の家屋とは反対に、表は閉ざし内側に向いた家。その先には豊かな光と緑があり、木々が隣家とのゆるやかな緩衝となってプライバシーを心地よく保つ。下見した中で最もオリジナルに近い1961年築の物件を夫妻が購入したのは2002年のことだ。
ちなみにこの一帯はアイクラーの密集地。地域の公共施設や教会、小学校もアイクラー様式だ。アイクラーには統一感を保つための保存規定があり、建築資材なども特別なため「うちのパネル、誰かいりませんか?」と住人同士で譲り合うネットワークもあるというから面白い。
アイクラーは住人が能動的に関わることで充足度が高まる家。このお宅では、キッチンやリビングなど人の出入りが激しい場所は使いやすく改装しつつ、全体では本来の姿を尊重し、修復や維持に日々努める。「暮らしを豊かにするため、自分の手で創意工夫を重ねていくのが好きです。このアイクラーはそれに応えてくれる家ですね」とトロイさん。まさに理想のアイクラー住人だ。