空間をデザインするように、構築的に花を飾って遊ぶ。
路面電車の音がのどかに響く駅前の一角に、花好きたちを魅了するフラワーアーティスト、若井ちえみさんの店がある。黒の天板とスチールパイプの家具を配した硬質な空間に、見惚れるような色や造形の花々が、あふれんばかりにディスプレイされている。その花を見れば、早朝から市場を歩いて丁寧に選んでいることが伝わってくる。
「初めての人には扱いやすく持ちのいい花を、リピーターには珍しい花など、それぞれに花の取り扱いや生産の背景などを説明しながら、季節の花を薦めています」と若井さん。
その花々と同様に存在感を放つのが、ユニークな造形の花器たちだ。このコレクションを使い、ランやアンスリウムなどの強いビジュアルの花に、繊細で流線的な野草などを合わせ、動きや抜け感を出しながら景色を構築していく。どこか空間デザインの視点とも重なる若井さんのスタイルは、訪れる客のヒントとなる。
「私が経験を積んだ店でも空間を意識する大切さを学びましたし、もともとバウハウスなどモダン建築やデザインが好きだからかもしれません」
花器はスウェーデンの老舗ガラス工房をはじめ国内外のメーカーや作家による一点もの。鮮やかな色や柄、具象的なデザインはいかにも難易度が高そうだが、若井さんいわく「器選びは花を選ぶのと一緒。最初は無難に選びがちですが、まずは相性を気にせず挑戦してほしいです。ファッションと同様に、試すうちに自分の好みが見えてくるはずだから」。口の広い花器は、初心者ほど花を多く使わないと寂しく見えてしまうので、最初は一輪挿しがお薦め。
「あとは1:1、1:1.5など器と花の黄金比で高さを調整するだけ」
また、複数の花瓶を使い、あえてすべて違う色や形を並べると個々の個性が際立ちつつまとまる、とも。
「ガラスや土もの、細長い形や変な形のものなど、ブーケを束ねる感覚で花器を並べます。花も丸形や粒々とした小花、葉のあるものないもの、高さも色々混ぜて。私はどの花も花器も主役にしてあげたいので」
空間をデザインするように、色と形に臆せず、遊ぶ。若井さんの言葉は、花のある生活への“楽しい気づき”に満ちている。